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最後の決闘裁判のDickのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.8
1.はじめに:リドリー・スコット監督との相性:

❶世界的名監督であるリドリー・スコットの監督作品は、1977年39歳のデビュー作『デュエリスト/決闘者(The Duellists)』以降、83歳の本作『最後の決闘裁判(The Last Duel)』まで計27本が公開されている。
❷その中で、海外駐在中でチャンスがなかった1987年の『誰かに見られてる』を除く全作をリアルタイムで観ている。
❸マイ評点は下記の通りで、超お薦めの95点以上が9本(内、最高の100点が5本)もあり、極めて相性が良い。(平均評点は「KINENOTE」による)

①2021年『最後の決闘裁判』平均評点79.1 点(206人)/20211.10鑑賞/マイ評点98点
②2017年『エイリアン コヴェナント』平均評点70.8 点(966人)/2017.09鑑賞/マイ評点85点
③2017年『ゲティ家の身代金』平均評点71.3 点(595人)/2018.05鑑賞/マイ評点85点
④2015年『オデッセイ(2015)』平均評点79.7 点(2910人)/2016.02鑑賞/マイ評点100点
⑤2014年『エクソダス 神と王』平均評点67.1 点(454人)/2015.02鑑賞/マイ評点85点
⑥2013年『悪の法則』平均評点63.9 点(844人)/2013.11鑑賞/マイ評点50点
⑦2012年『プロメテウス』平均評点66.5 点(1385人)/2012.08鑑賞/マイ評点95点
⑧2010年『ロビン・フッド(2010)』平均評点70.4 点(375人)/2011.01鑑賞/マイ評点70点
⑨2008年『ワールド・オブ・ライズ』平均評点70.3 点(534人)/2008.12鑑賞/マイ評点100点
⑩2007年『アメリカン・ギャングスター』平均評点72.7 点(411人)//2008.12鑑賞/マイ評点100点
⑪2006年『プロヴァンスの贈りもの』平均評点71.5 点(131人)/2007.08鑑賞/マイ評点80点
⑫2005年『それでも生きる子供たちへ(オムニバス)<ジョナサン>』平均評点71.7 点(21人)/2007.07鑑賞/マイ評点80点
⑬2005年『キングダム・オブ・ヘブン』平均評点69.0 点(268人)/2005.05鑑賞/マイ評点80点
⑭2003年『マッチスティック・メン』平均評点73.3 点(440人)/2003.10鑑賞/マイ評点95点
⑮2001年『ブラックホーク・ダウン』平均評点75.6 点(693人)/2002.04鑑賞/マイ評点85点
⑯2000年『グラディエーター』平均評点77.8 点(825人)/200.06鑑賞/マイ評点100点
⑰2000年『ハンニバル(2000)』平均評点70.9 点(766人)/2001.04鑑賞/マイ評点80点
⑱1997年『G.I.ジェーン』平均評点62.8 点(177人)/1998.02鑑賞/マイ評点80点
⑲1996年『白い嵐』平均評点69.9 点(92人)/1996.05鑑賞/マイ評点85点
⑳1992年『1492 コロンブス』平均評点66.4 点(59人)/1993.04鑑賞/マイ評点80点
㉑1991年『テルマ&ルイーズ』平均評点76.1 点(540人)/1992.4鑑賞/マイ評点85点
㉒1989年『ブラック・レイン』平均評点74.6 点(756人)/1989.11鑑賞/マイ評点70点
㉓1987年『誰かに見られてる』平均評点61.6 点(74人)/未見(海外駐在中)
㉔1985年『レジェンド 光と闇の伝説』平均評点56.1 点(98人)/1987.09鑑賞/マイ評点60点
㉕1982年『ブレードランナー』平均評点79.2 点(949人)/1982.07鑑賞/マイ評点95点
㉖1979年『エイリアン』平均評点80.5 点(1008人)/1979.07鑑賞/マイ評点100点
㉗1977年『デュエリスト(1977)』平均評点69.1 点(60人)/1982.02鑑賞/マイ評点80点

●作品概要(出典:公式サイト)
リドリー・スコット監督がジョディ・カマー、マット・デイモン、アダム・ドライバー、ベン・アフレックという豪華キャストを迎え、実話を元に、歴史を変えた世紀のスキャンダルを描くエピック・ミステリー。中世フランス──騎士の妻マルグリットが、夫の旧友に乱暴されたと訴えるが、彼は無実を主張し、目撃者もいない。真実の行方は、夫と被告による生死を賭けた“決闘裁判”に委ねられる。それは、神による絶対的な裁き── 勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者はたとえ決闘で命拾いしても罪人として死罪になる。そして、もしも夫が負ければ、マルグリットまでもが偽証の罪で火あぶりの刑を受けるのだ。 果たして、裁かれるべきは誰なのか?

2マイレビュー:ネタバレなし

◆以下には、公になっている史実からの逸脱はありませんが、本作を白紙状態でご覧になりたい方は、本項をスルーして下さい。

★史実の部分はWikipedia(英語版)を参考にした。

❶相性:上。

➋時代と舞台:

①Based on true events(史実に基づく物語)。
②フランス国王シャルル6世統治下の1386年12月29日のパリから幕が開き、同日のクライマックスとなる決闘に至るまでの経緯が、1370年、1377年、1380年、1381年、1385年、1386年に遡って順に描かれ、最後は決闘から数年後の後日談で幕を閉じる。
★フランスに於けるフランス人の物語なので、本来はフランス語で描かれるべきだが、資本・スタッフ・キャストが英語圏である米・英なので、英語で作られている。歌の歌詞や表示はフランス語になっている。
★こんな例は世界には数多くある。
③そして、特筆すべきは、この間の出来事が、主要人物3人の視点から語られること。
ⓐChapter 1:ジャン・ド・カルージュによる真実
ⓑChapter 2:ジャック・ル・グリによる真実
ⓒChapter 3:マルグリットによる真実
★黒澤明監督の傑作『羅生門(1950)』の成功により、或る事象を複数の登場人物の視点から描く手法が、世界的に用いられるようになった。『羅生門』では、盗賊(三船敏郎)によって侍夫婦の夫(森雅之)が殺され、妻(京マチ子)が強姦されるが、その状況が3人の視点から描かれている。
★本作では、女性マルグリットの視点を創作して、現在に通じる社会性と深みのある内容に仕上げている。

❸主な登場人物

①ジャン・ド・カルージュ/ Sir Jean de Carrouges IV(マット・デイモン):実在(1330s-1396)
ⓐ武勇に優れた従騎士。後に騎士に昇進。
ⓑ父はベレムの長官で、代々の名家。自身の領地は、不作続きで、大領主ピエールに収める税が集まらず、出征して報奨金を稼いでいる。文よりも武、考えるよりも先に行動するタイプ。
ⓒ親友のジャック・ル・グリは、ジャンの亡くなった(明示されないが多分病死)妻子の子の名付け親だった。
ⓓジャンは、1377年の戦いでジャックの命を救う。
ⓔ1380年、ノルマンディの戦いに参加したジャンは、裕福な地主のロベール・ド・ディボヴィルの世話になる。そこで、娘のマルグリットを紹介される。ロベールは、かってイギリスの味方をした裏切り者だったが恩赦になっていた。ジャンは上品で美しいマルグリットに心を奪われ、結婚に至る。マルグリットの持参金はジャンの家計に貢献するが、持参金に含まれる筈だった土地が、ピエールによって没収され、ジャックに与えられる。
★世渡りの下手上手がジャンとジャックの運命を分けてしまったのだ。
ⓕジャンは、王に直訴するが却下され、そのことがピエールに知られてしまい、関係が悪くなる。
ⓖ長官だったジャンの父が亡くなるが、後任は息子のジャンではなく、ジャックに決まる。ピエールの嫌がらせだった。収まらないジャックはピエールとジャックに食って掛かり、3人の関係は決裂する。
ⓗ1年後、或る祝賀会で再会したジャンとジャックは、和解するが、信頼の証として、ジャンは、ジャックにキスをするよう同行しているマルグリットに要求し、マルグリットが従う。ジャックはマルグリットに一目惚れする。
★これが、悲劇の発端となる。
ⓘ4年後、ジャンはスコットランドの戦いに出征し、功績により、従騎士から騎士に昇進し、報奨金を得る。
ⓙ帰還したジャンを待ち受けていたのは、あろうことか、マルグリットがジャックに強姦されたという知らせだった。ジャンは、留守中は、マルグリットを一人にしないよう言い残していたのだが、父の死後同居している母のニコルが侍従を引き連れて出かけてしまい、一人になったマルグリットをジャックが強姦したのだった。
ⓚ驚き怒ったジャンは、ピエールに訴えても握りつぶされるだけなので、友人たちを通じて噂を広めさせた上で、国王に「決闘裁判」を訴え出た。そして、裁判所の審理を経て、国王の裁定により「決闘裁判」が決定する。
ⓛそして、クライマックスの決闘裁判。激しい死闘の末、ジャンは重傷を負うものの、ジャックの息の根を止める。黒衣を着せられて壇上に拘束されていたマルグリットは、ようやく解放されたのである。

②ジャック・ル・グリ/Jacques Le Gris(アダム・ドライヴァー):実在(1330s –1386)
ⓐジャンの親友の従騎士。
ⓑ家柄に恵まれなかったので苦学して教養を身に着ける。聖職者の道に進もうとしたが、女好きのジャックには戒律が合わずに断念。
ⓒ数字に強いため大領主ピエールに気に入られ、税の徴収を任されている。
ⓓ1377年の戦いでジャンに命を救われたことで、便宜を図っている。
ⓔ上記の土地と長官の問題で、一旦は決別したジャンとジャックが、友人の祝賀会で再会し、和解する。そこで、ジャックはジャンの妻となったマルグリットとキスするが、彼女を忘れられなくなってしまう。
★散々女遊びをしてきたジャックが、本気でマルグリットに惚れてしまったのだ。
ⓕジャックは、知人に頼んで、ジャンの城で一人で留守番をしていたマルグリットをだまして、城内に入り、マルグリットに求愛する。拒否するマルグリットを力尽くでねじ伏せて強姦する。
ⓓその後、ジャックは教会で告解し、ピエールにも事情を話して理解を求める。ピエールは、「証拠はない。否定しろ。裁判は行うが裁くのは私だ」と応じる。
ⓔしかし、審問会でピエールが無罪を言い渡す前に、ジャンは国王に上訴していたのだ。

③マルグリット・ド・カルージュ/ Marguerite de Carrouges(ジョディ・カマー):実在(?-1426?)
ⓐジャンが再婚する、教養があり聡明で美しい女性。
ⓑ結婚当日、ジャンから「俺は嫉妬深い」と聞かされる。
ⓒ初夜から夫婦の営みはあったが、ジャンが一方的に迫るので、マルグリットの快感はなかった。この当時は「女性が絶頂を迎えると妊娠する」と考えられていたので、調子を合わせているのだった。
ⓓジャンは男の跡継ぎを強く求めていたが、マルグリットは何年も妊娠しなかった。義母のニコルからもそのことで嫌味を言われ、マルグリットの重荷になっていた。
ⓔ落ち込んだマルグリットを見かねた侍女が、ドレスを新調したらと提案する。流行のドレスは胸の露出が大きいもので、それを着たマルグリットがジャンを出迎えるが、ジャンは「はしたない、売女のようだ」と怒り、ニコルも同調する。
ⓕジャンの出征中、マルグリットは留守宅を一所懸命に守った。それが、マルグリットの活力となっていた。
ⓖある日、ニコルが侍従を引き連れて出かけてしまい、一人になったマルグリットを、顔見知りのジャックの知人がだまして城内に入るが、隠れていたジャックも同時に入り込み、マルグリットに求愛する。ジャックは、拒否して抵抗するマルグリットを力尽くで強姦する。そして、「貴方も快感があった筈だ。他言は無用」と言い残す。
ⓗマルグリットは、帰還したジャンに全てを打ち明ける。「私は真実を話します。それには法の後ろ盾が必要です。」と語るマルグリットに、ジャンが力強く応じる。「俺がついている。奴をお前の最後の男にはしない。」そして、2人はベッドで愛を交わす。
ⓘ2人の作戦通り、強姦の噂が広まるが、反感を持つ女性は少なくなかった。ニコルもその一人で、「かって私も強姦されたが黙っていた」と。
ⓙ月日が経過し、裁判が進行する。マルグリットが妊娠していることも分かる。
★マルグリットの妊娠に関しては、父がジャンとジャックのどちらかなのかが明確にされていない。当初は、ジャンの場合、結婚後6年ほどマルグリットが妊娠しなかったことから、ジャックの可能性が大きいと考えた。その後の調べで、裁判後、ジャンとマルグリットの間には2子が誕生していることを知った。両者の確率は半々だと思う。
ⓚ「決闘裁判」が決定するが、マルグリットは、裁判の過程で、自分では避けられない恐ろしい運命があることを知った。ジャンが負けた場合には、マルグリットも丸裸にされ、柱に縛られ、焼き殺されるのだ。それでもマルグリットはひるまず胸を張る。「すべて真実です」。

④ピエール・ダランソン伯爵/ Count Pierre d'Alençon(ベン・アフレック):実在(1340-1404)
ⓐ大領主。
ⓑ大の女好き。結婚14年となる妻マリーとの間に7人の子がいて、8人目を妊娠中であるにも関わらず、財力と権力にモノを言わせて酒池肉林の乱痴気騒ぎに興じている。
ⓒ数字に強く忠実なジャックを贔屓にしている。

⑤ジャン・ド・カルージュ3世/Sir Jean de Carrouges III(オリバー・コットン):実在
ジャンの父。ベレムの長官。

⑥ニコル/ Nicole de Carrouges(ハリエット・ウォルター):実在
ジャンの母。夫の死後は、ジャン&マルグリットと同居。

⑦ロベルト・ド・ティブヴィル/Sir Robert de Thibouville(ナサニエル・パーカー):実在
マルグリットの父。裕福な地主。

⑧シャルル6世/ King Charles VI(アレックス・ロウザー):実在(1368-1422)
フランス国王。

❹まとめ

①前述の通り、1つの事象を主役3人の視点から描いた脚本が見事である。
★脚本家としても評価の高いマット・デイモンとベン・アフレックの2人に、女性のニコール・ホロフセナーが参加した成果が出ていると思う。
②キャラでは、600年以上も前に、当時は泣き寝入りするしかなかったレイプ事件に異議を唱え、自身の命を懸けて告発した女性マルグリットの勇気と決断力に感動した。立派である。
★だから、現在に至っても歴史に名を留めているのだ。
③夫のジャンが戦死した後のマルグリットの生き方も見事である。下記★参照。
④エンドクレジットの中で、ジャンとマルグリットのその後が字幕で示される。
ⓐジャンは数年後、十字軍の遠征で命を落とした。(1396年、享年60歳代)。
ⓑマルグリットは以後30年間、女主人として裕福な生活を送った。生涯、再婚はしなかった〟
★史実によれば、決闘後、マルグリットとジャンには、更に2人の子が生れた。ジャンが戦死した後は、10歳の長男が土地と称号を引き継いだ。マルグリットは舞台裏で息子たちをコントロールして裕福に暮らした。そして、結婚を迫る男性たちを寄せ付けなかった。
★天晴れなり。最後に勝つのは女なのだ。
③最後に、83歳の高齢にして、このようなアクション大作であり、心理ドラマでもある傑作を生みだしたリドリー・スコットのパッションとバイタリティに敬服する。本当に凄い。

❺トリビア:Job Creation

①エンドクレジット終了後、次の一文が表示された。
「The making and authorized distribution of this film supported over 13,000 jobs and involved hundreds of thousands of work hours.」
②2013年以降、「映画製作が雇用創出に貢献している」とのメッセージをエンドロールの最後に示す作品が出てきていて、小生が気が付いた範囲で本作は36本目となる。
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