このレビューはネタバレを含みます
原題が「ベルリンの上空」、英仏訳が「希求(願望?)の翼」。どうして「天使の詩」なのか。これは「人間の詩」なのに。
ヴェンダース以外は皆、天使になってしまった2022年ウクライナ侵攻の今、東西冷戦で引き裂かれていたベルリンを改めて見る。
記憶では霊ダミエルが地上に墜ちて色彩と五感を得て、雪の残る道を歩き、色を尋ね、珈琲を飲み、寒さに手を擦り、地上にいるピーター・フォーク(『カリフォルニア・ドールズ』に、この映画二本で、コロンボを超えている)と語り合うシーンの印象が強い。このシーン、人間讃歌みたいに云われてきたし。サーカスのパフォーマンスもスリリングで危うくて。クラブの音楽も前衛的だな~と思っていた(が、こちらが歳を重ねるに連れ、音楽的には若返っていったみたいだ)。
今はマリオンの孤独、街に残る戦争の爪痕、人々の寂しい寂しい日常の心の呟きが沁みる。誰も見ていないのに、テント裏で片脚立ちの芸をする象。そして分断された街で有限な生きられる時間の中、愛し合うことで大きな歴史の流れに連なってゆく二人。でも、それもいっとき。
ピーターの絵。ホメロスの詩。映画。人間は無限に流れていく時間をいっときでも留めようとするけれど、流れは止まない。
マリオン。天に近い空中ブランコ乗り。落ちれば死(霊たちのよう)。かと言って天から地上に降りないと生きていけない。天にも地にも居場所がない。
カシエルのように、霊はじっと近くにいるのだろうか。もう子どものようには見えないけれど。
ところでレストア版でレビューも分断されているのって、かなり望ましくないと思うが、どうなんでしょう。