かつきよ

死刑にいたる病のかつきよのレビュー・感想・評価

死刑にいたる病(2022年製作の映画)
3.5
割と楽しみにしてた作品。
話自体はそこそこ面白いけど、文学のままにしといた方が映えたと思うので、原作の方がゾッとできると思う。映画も面白かったけど、原作でやりたかったホラーの要素は映像化することで一部薄れたり、逆に誇張されたりして、バランスが悪くなっているなと感じました。

ジャンルで言うとサイコホラー。サスペンスやミステリの要素もあるけど、それは(少なくとも)映画だと少し希薄になりがち。演出や映像が全体的に、グロテスクで悲惨な犯罪シーンにクローズしたものが多いので、そういった残忍さとショッキングさを物語を通して追っていく悪趣味なテラーがメイン。

あらすじとしては
表の顔は街の優しいパン屋さん、裏の顔は尋常じゃない拷問の末、思春期男女を残忍に殺害する絵に描いたようなサイコパスシリアルキラーの榛村(阿部サダヲ)
そんな榛村から手紙を受け取った、昔パン屋の常連だった青年、筧井雅也君。
おめおめと拘置所に面会に行くと、立件された9件の殺しのうち、最後の一件は自分の犯行じゃないので真犯人を暴いてほしいと言う榛村……。

興味本位で真実を追ううちに、とんでもない真実を知ったり、榛村への謎の信頼?が芽生えていったり……

……というストーリー。
改めて考えるとわくわくするし、この煽りからオチにかけてストーリーはしっかりとしていたんですけれど……

どんでん返しとは言わないまでも、ラストにたたみかけるようにゾクリとできそうな展開や真相を用意しているのにも関わらず、事件の真犯人や真相、榛村が事件捜査で何をさせようとしていたのかっていう肝心な部分の種明かしシーンの演出が散漫としてしまったかなぁ。個人としてはしっくりこず、ぼやっとしていて明瞭さや真相解明の快感には欠けていました。
ミステリーやサスペンスのジャンルで映画を作っていたとしたらもう少しさっぱりとした演出でエンタメ的な盛り上がりを見せていたんでしょうけど、あくまでサイコホラーなので、画角的な残忍さや鮮烈さに重心を置いている印象。
全体的に、榛村のサイコパスな事件や犯行の風景、心理的背景を丁寧に追っていくようなストーリーなので、すごい元も子もないこと言うと、見ていてどんどん気分が悪くなるし、物語仕立てで仕掛けがある犯罪ドキュメンタリーを見てるような感覚に近いですかね

ただ、それに「あてられて」私たちがどんどん気分が悪くなっていって、当然対面している主人公も心理的に普通じゃいられなくなるわけで……
最終的に榛村と関わった人間がどうなっていくのか、いかに榛村が影響力のある人間なのかを、画面のこちら側まで侵食してくるような悪意で届けてくれる感覚がこの映画の真骨頂かな、と思いました。





◆以下、少しネタバレもあり感想
















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結局、榛村にとって雅也くんも執着されてる1人だったわけで、榛村の心を満たす行為って、拷問の末の殺害以外にもあったってことですよね。
拷問+殺害が、わかりやすく世の中に認知されて立件されて逮捕されただけで、手紙を出したり、拘置所に呼び出して会話するだけでも、榛村は目をつけた子供たちをコントロールすることができたし、それで意のままに操ったり、崩壊させたり信頼させたりして心を満たしてたんですよねきっと。
ただ手紙を出して拘置所で会話するだけじゃこの世の中では犯罪ではないですし、でもそうやって確実に人の心に入り込み、犯罪を誘発させる可能性もあるし、罪の意識で自殺させたり破滅させる可能性もある。とにかく、自分の目をかけた好きな子たちが、広義で「苦しむ」ことこそ榛村の至福の時間なのかなぁ
ど変態、まさしく、気持ち悪い……

そういう、知らず知らずの支配や伝染が「病」って事なんだろうけど

結局雅也くんは自分がそうやって支配されてることまで気づいて、自ら榛村という病を断ち切ることができたわけですが……

最後の最後で、実は灯里ちゃんも榛村と繋がっていた(そして多分支配されている)1人だった、というオチはぞくりときますね。
灯里ちゃん明らかに都合のいいヒロインポジだったので、実はずっと雅也君のことを榛村からアドバイスもらっていたと言う原作のオチはあっぱれだしぞくりとくるのですが、映画版ではサイコパス自体も感染してそうな露骨な感じに、捜査資料まで持ってて、演出が誇張されあからさまになってたので、若干首を捻ってしまいました。
もともと最初からずっと榛村と繋がっていたんだ、あの時のあの発言はそう言うことだったんだ!と気づかせるような伏線やトリックが仕掛けられていたら、オチとしてもっと強く、映画として完成度が上がっていたと思うので残念です。
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