カテリーナ

パワー・オブ・ザ・ドッグのカテリーナのネタバレレビュー・内容・結末

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ジェーン・カンピオン監督の『ピアノ・レッスン』は彼女特有の映像美と女性の性を描き身体の芯まで澱のように堆積した
忘れられない作品となっていた
とりわけピアノが海の底にゆっくりと沈んで行く様子を何度も繰り返して思い出し
その意味について考えたのを覚えている 

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は主人公の弟の結婚によってあからさまに悪意ある態度や言動で弟の妻を精神的に追い詰めて行くと同時に兄と弟その妻と連れ子の変化して行く関係性を描く 

牧場主の粗野で荒々しいワンマンな兄フィルは後妻となるローズとの出逢いの瞬間から彼女に対して嫌悪感を抱いていたのがわかる その後の意味不明な行動から
フィルはどうも、ホモフォビアの裏返し
自分を正当化する為の攻撃のように映る
これから一緒に義兄として暮らして行く
フィルに対してローズがにこやかに
「お兄さん」と呼びかけるも
「兄では無い」と激しく拒絶する
弟にブロンコ・ビリーという名の男について何度も言及する
牧場主としての仕事を1から学び、導いてくれた彼のお陰で今の生活があるのだ
森の奥にある秘密の場所でひとり物思いに黄色くなった布切れを
とても大事そうにズボンの中から引きずり出しまるで愛撫するかのように裸の胸や腕や顔に触れさせる 生前のブロンコ・ヘンリーとの行為を辿るように
牧場にローズの学生の息子ピーターが長い夏休みを過ごす為にやってくる
彼への眼差しが嫌悪から好意に変わる瞬間
が良い
「あの丘を見ろ普通の人間は丘にしか見えない」
ブロンコは何を見たと?
「吠えてる犬」

遠くから見た丘の山肌の形が口を大きく開けてる犬みたいだとピーターがフィルに告げた時からだった
ブロンコがフィルにしたように
今度は自分がピーターに教えようと思った

偶然の一致から仕組まれた罠に気付いた時には
もう、遅かった
恐ろしい炭疽症によってフィルの亡骸は棺に収められる
序盤炭疽菌でやられた牛には触るなと弟に
注意するフィルの声が蘇る

ピーターは
医者だった父親が亡くなって
母親を守るのは僕しかいない
そう、誓った言葉を最後に噛み締める
最後の仕上げにとフィルに渡したピーターが炭疽症の牛の死骸から剥いだ生皮だったのだ
手袋をした手でフィルが編んだロープの感触を確かめた後 ベットの下の奥深くに
追いやる まるで犯した罪を隠すように
ピーターの父親は首を吊って自殺を遂げたのはピーターが冷たくて強いからだと
フィルに呟いたピーターの伏線が戦慄と共に回収される

同じNetflixの
ジェーン・カンピオンが語る舞台裏で
原作を読んだ時は映画を撮ろうとは思ってなかった
その時はただずっと本のことが頭から離れなかった
それだけ吸引力があった
著者の繊細な描写にも驚かされた
これは生の経験ね
題材はトーマスの実体験だった
彼はモンタナの牧場で暮らし
悪魔のような義理の叔父がいた
彼自身はゲイの少年だったと語る

ジェーン・カンピオンの言葉を頭の中で
反芻する
彼女の言う吸引力のあるこの物語の原作を読んでみようと思う
ジェーン・カンピオンの深層心理を探る
手がかりになる筈だから
それにしても
この作品から得るものは少なくない
最近見た映画の中では群を抜く
素晴らしさだった
カテリーナ

カテリーナ