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デスパレート・ランのbackpackerのレビュー・感想・評価

デスパレート・ラン(2021年製作の映画)
4.0
ジョギング版『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』。

アメリカの病巣にして深刻な社会問題の一つ、銃乱射事件。
本作では、スマホによる通話を用いた変則型のワンシチュエーション映画として、銃乱射事件に巻き込まれた息子と母親の物語を展開します。
ドローン空撮の遠景が美しい大自然の中とは対照的に、スリリング極まる通話劇は緊迫感抜群で、84分という短い時間にギュッと凝縮されていたことも相まって、スリルが最後まで持続していましたね。
第二幕の第2ターニングポイント部分にて、主人公のエイミー・カー(演:ナオミ・ワッツ)が車に乗ってしまうことで、距離的問題によって生じる緊迫感は急速に低減しますが、犯人との会話という新たなエンジンのおかげで、最後まで持ち堪えることができました。

通話という限定的なシチュエーションスリラーは、コロナパンデミック以前から一定数作られていましたが、盛り上がりをみせたのは明らかに『THE GUILTY』の大ヒットがあったからかな?という印象。
この手の作品は予算はそこまで必要としないでしょうが、面白くするのは難しい。
そこを上手くやるのが、ハリソン・フォード版ジャック・ライアンシリーズでお馴染み職人監督フィリップ・ノイス。アクション映画で積み重ねた職人の技量は本作でも上手くハマり、「女性が走って電話するだけ」というアクション性の変化が乏しい中でも、緊張の糸を切らせません。


個人的には、不穏な空気が感じられる結末部を生かすためにも、エンドロール前に入るスマホ縦画面動画配信映像は不要でした。
「これからもこの問題に対して発信し続ける」という訴えは素晴らしいとは思いますが、折角極め付けに怪しい雰囲気を漂わせて、映画の冒頭と同様の状況へ戻る円環を描いたのだから、もっと危うげに終わらせても良かったのに。

また、銃乱射事件というセンセーショナルなテーマを取り上げる以上、この問題に対する知識を一定程度有していることは大前提。
『ボーリング・フォー・コロンバイン』と『エレファント』、最近の作品では『対峙』あたりを見ておけば、このテーマを全然知らない人であっても、楽しめるのではないでしょうか。
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