ひこくろ

雨を告げる漂流団地のひこくろのレビュー・感想・評価

雨を告げる漂流団地(2022年製作の映画)
4.2
久しぶりに小中学生向けにちゃんと作られたアニメを観たなあと感じた。
世界の構造とかは結構適当で、何をすれば漂流から抜け出せるのかも明示されない。
起こる出来事もわりと行き当たりばったりで、目的意識もなんとなくぼんやりしている。
いわゆる大人向けに作られたアニメを見慣れた人にとっては、かなり物足りないものだろう。

でも、主人公たちが小学生ということが、この映画のすべての欠点を補っている。
小学生にだって大切な記憶や思い出の場所はある。
それは大人になったら忘れてしまうようなものだけれど、彼らにとっては重大事だ。
決して忘れられない場所、それが漂流する団地という形で描かれているのがいい。

また、性格や人間関係も彼らは大人とは違っている。
仲が良かった女の子を意識してしまい、うまく付き合えなくなってしまった男の子。
弱音を吐くことができずに、どんな時にでも強がってしまう女の子。
まるで世界のすべては自分の言いなりにならなきゃいけないと言わんばかりのわがままな女の子。
自分は口ばっかりだと、どこかで負い目を感じている女の子。
映画に出てくる子たちはみんな、いわゆる「子どもらしい」子どもではない。
ストーリーのために必要とされるような人物造形でもない。
たぶん、大人が見てもピンと来ない。子どもが見た時にリアルだと感じるだろう子どもなのだ。

秘密基地、探検、謎の少年、冒険。
出てくる要素もどれもが、子供の頃にワクワクしたものばかりだ。
そのなかを、あまりにも子ども的な子どもたちがこれでもかと駆け回る。
大人の思惑なんか知ったことかと言わんばかりに。その潔さが心地いい。

大人に向けたアニメばかりのなか、こういうアニメはとても貴重だと思う。
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