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リコリス・ピザのAnima48のレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
3.9
腐れ縁とでも言うのかな、切れそうで切れない長く続く縁って実際ある。お互い別の相手と一緒になったり、別れたり、面倒毎を持ち込まれたりしてもなぜか続いている飲み仲間だったりする。そこからどうなるかはわからないけど。

15歳には見えないほど貫禄があり野心も人脈もあるゲイリーが早熟だからだろうか、年上のアラナに関心を抱きアプローチをする。その様子は堂に入っていて、本当に15歳?って思うほど。”仕事もちょっと上手くいってて、それなりに稼げてるんだよね”、そんな異性へのアピールする15歳って見たことない。例えば、クラス中の憧れの女子に幾つも学年が下の子供が告白してくる感じで、ちょっと末恐ろしい感じが長廻しで見ていられる。映画界で少し成功していて、ちょっといいレストランを知っていたり、同じ15歳でも、中学3年生の15歳ではなくって高校1年の15歳なんだろうか?アラナは20代でゲイリーを子供扱いするけれど、親と同居をしていて、どこか自分の居場所を探しているようだ。LAの郊外の世界では触れえなかったゲイリーの世界は彼女にとって新鮮で、それを案内するゲイリーに年齢差を忘れたこともあったのかもしれない。まあ、相手を子供扱いしながらもむしろ張り合っていたような所もある。ゲイリーの起業に一枚噛んでアラナは良い相棒になるけれど、その過程で脇道に出来る人間関係にはまりこんでお互いにやきもちを焼いたりする。

旬を過ぎて育ちすぎた子役と自分を見つける事も目指す夢も見当たらなかったカメラアシスタント、お互いに抜けているとこもあってイライラや背伸びや共感、ちょっとした好奇心、憧れを抱く。決して常に情熱的でもなく、ただぶらついているだけのときもある。姉弟・母子にも似たかみ合いが悪い歯車のような二人の関係は多少がたつきながらもだらだらと気まぐれに回り続けていた。

ストーリ-はあまりなく、無数のエピソードの間をまるでピンボールの玉のように2人があちこち弾き飛ばされて不安定な関係を紡いでいく様子が続く。ピンボールのように2人の関係はゲイリーの無邪気な自信が発射台になって始まる。アラナはゲイリーにない物、例えば彼女の年齢にふさわしい“大人らしさ”を求めるように、いろんな男性と出会うけれど、みんなちょっとしたあくの強いモンスターで、コントロール不能なマチズモを抱えた年輩の元スターや物忘れの激しいベビーファイスの市長候補、病的に女好きなプロデューサだったりする。それがスリングショットのように2人の関係を吹き飛ばすと思いきや、またフリッパーで打ち上げられるボールのように2人のイベントはまた始まる。挫折が描かれることもなく、ほろ苦さも抜きで楽しいイベントだけが続いていくあたりもピンボールの様だった、誰でもこんな人生を送りたいんじゃない?たまにはこんなことを白昼夢のように楽しんでもいいさ。  

とはいえ、アラナに厳しい瞬間もあって、ゲイリーに振り回されてしまう。特にウォーターベッドのショールームから飛び出して、キスを与えてしまった辺りとかは本当に危なっかしくてやけっぱちで泣きたくなる。バイクから落ちた時とか、ゲイリー以外は誰も気に留めないし。(でもちょっと良かったよ、ゲイリー。)なんだか苦労して成功した途端に別れを切り出される有名人の奥さんのように不安だ。もうこれからはアラナがゲイリーを振り回しちゃえばいいのに。オイルショック下でいつ補給できるかわからないガソリン切れのトラックを必死でバック運転していくアラナ、その隣でただ歓声をあげるだけのゲイリーは、ガソリンを見つけても仲間とふざけながらちゃんと入れない。朝もやの中危機が横に迫っても気づかないゲイリーを見つめながら、疲れて髪をかき上げるアラナは大人と子供という2人の差にあらためて思うところもあったと思う。

20世紀初めや戦後初期•60~70年代とか監督は過去に題材を求めることが多くて、今回はSNSが原因の炎上もなく、コンプラが厳格に適用されるわけでもなく、オートロックもWEBもアイフォンもない70年代。多少のコネと少々過剰な自信があればラジオ局から少々怪しげな商品をDJがただで広報してくれるし、偏見に気づかない愚者が下品なしたり顔で笑いかけてきたりもする、理由を告げずに誤認逮捕しても書類も書かずに即釈放、そんな空気感。そして誰かに想いを伝えるには固定電話をかけるか、出かけて会うしかない時代で、話しながら小走りしたり、走ったり、車の運転、立ち寄ったりとかの一つ一つの移動の動き、とりわけ走る様が素敵だった。そういったある種おおらかな当時の光景がピンボールの点滅するライトのように二人の行く末を照らしているけれど決してけばけばしいわけではなく、柔らかくのんびりした光景だった。

若さ故の無軌道さと幼さからくる可愛らしさが交互にやってくる。仕返しのために躊躇せずフロントガラスを割ったり、子供向けイベントでセクシーな水着姿の女性にウォータベッドを売らせて、子供向けのピンボールの店を開く。それなのに石油危機にビニールの高騰に思いを馳せれないし、車の運転はまだできないとか。そんなエネルギッシュなアンバランスさに夢中になって、楽しい時間を過ごせた。自分が経験したことがないアメリカの70年代なのになぜか喪失感を感じるのはなぜだろう?

・・そういえばピザは出てこなかったよ。
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