平野レミゼラブル

白蛇2:青蛇劫起の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

白蛇2:青蛇劫起(2021年製作の映画)
4.5
【苛烈なる修羅を爆速テンポで駆け抜けろ!!千年を超える姉妹愛は時空をも超越する──】
蛇の妖怪と人間の男、能力バトルや大怪獣バトル、輪廻転生を経て数百年に及ぶ恋を描いたロマンチックバトル中華アニメーション『白蛇:縁起』の続編。スタッフロール後の予告で流れていた時点で興味津々でしたが、ネトフリで早くも配信ですよ!!
今回もベースとなっているのは中国民間伝承「白蛇伝」の内の『白娘子永鎮雷峰塔』。前作でも塔の封印や洪水などに片鱗はあったものの、こちらはのっけから妖怪退治を生業とする僧侶・法海によって宣(セン)が囚われ、それを助けに向かった白(ハク)が雷峰塔へと封印されてしまう…といった形で再現されています。
前作ラストで転生センとハクが結ばれたかのようなラストだったので「はて…?」とも思いましたが、ハクと一緒にセンを助けに向かった青(セイ)が「何度転生しても~」と言っているので、さらに転生した先の時系列でしょうか?前作の時代が晩唐、今作は宋の時代とのことですが、宋も300年以上続いているしセンが何回か転生していてもおかしくはない。
伝承通りならば、ハクが封印された後にセイが山奥で修行を続け、法海を超える法力を身に付けることで雷峰塔を破壊するのですが、本作ではちょっと捻って法海によって修羅界に追放されたセイがそこから抜け出すために闘いを繰り広げるという形にアレンジしています。

キャラクターの関係性とかは基本知っているものとして進むため、前作を観ているに越したことはないですが、ぶっちゃけ本作から観始めても特に問題ないやも。と言うのも、本作は世界観がガラッと変わって別ジャンルの作品となっているからです。
前作『白蛇:縁起』が能力バトルといった要素はありながらも、主体はハクとセンによる種族や年数を超えたラブロマンスだったのに対して、本作はというと世紀末シティで次々襲い掛かるヒャッハー蛮族や災害の如し怪物達から逃げ回るサバイバルアクションが主体となっているからです。

舞台となる修羅界の造形がユニークでして、高層ビルが乱立し車やバイクもあるなど、見た目は近代都市さながらなんですが、明らかに荒廃しており、まるで『北斗の拳』のサザンクロスのよう。
修羅界に落ちてくるのは現世に強い執着を残しながら死んだ者で、種族にしても人間・妖怪の区別がない。さらに時間すら超越した場所であるため、セイのように宋の時代から来た妖怪もいれば、2020年から来た人間もいるという具合に混沌としています。
また、修羅界においても死の概念は存在しており、こちらで生きていく為にも物資が必要。となると、自然性格ヒャッハーな荒くれ者どもが徒党を組み、略奪や支配の為にあちこちで対立や抗争が繰り広げられている危険地帯と化しています。
物理法則も現世とは異なっており、しょっちゅうビルが崩れて新しいビルが生えてくる具合に街自体が生き物となっていたり、夜になるとどこからともなく飛んできて次々生者に襲いかかり噛み付いた者を物言わぬ同類にしていく吸血鬼のような怪物(幽霊)まで跋扈する……といった有り様。
そう、時はまさに世紀末
Keep you burning 駆け抜けて
この腐敗と自由と暴力のまっただなか
No boy no cry悲しみは
絶望じゃなくて明日のマニフェスト……

最愛の姉を封印され、姉を守れなかった弱き人間(転生セン)や自分に怒り狂いながら、そんな明らかにヤベェーところに落とされてしまったセイの状況はのっけからハードモードです。開幕早々、事情もよくわからないまま、落ちた先を縄張りとしている牛頭馬面の一体に狙われ死闘を繰り広げることに。
前作では水(氷)属性の法術や大蛇に姿を変える能力等を持っていたセイですが、法海に封じられた影響からか、本作においてはそれらの能力が軒並みナーフされています。一応冒頭で法海相手に水の法術は使っていますが、大蛇状態にはただの一度もならないという。
となると、見せ場が減って物足りない…となりそうですが、その代わりにバイクや銃を用いたアクションで実に魅せてくれるため物足りなさは全くないです。

もうね、修羅界ついて早々のチェイスからしてド迫力でしてね。一人称のような視点でセイが廃ビル・廃屋をパルクールの要領でグリグリ駆け回る映像からしてキレッキレ。カメラワークが抜群すぎまして、スピーディーに狭所を潜り抜けていく爽快感が堪んない。
そんなセイを助けてくれる人間の孫と合流してからは、バイクアクションやガンアクションまで解禁されまして、キメ絵でスローモーションになったかと思えば突如元の速度に戻るメリハリの効いた演出がくどくもなく実に巧い。
製作の追光動画が手掛けた伝奇バイクアクションアニメ『ナタ転生』から更に進化しており、下手なアクション大作以上のド迫力。

3Dアニメーションの利点も使いこなしていまして、修羅界に落ちてきた多種多様の魑魅魍魎の造形が凝りまくっていて、1体1体のキャラクターも濃く見えます。
デカブツで見るからに屈強な牛頭馬面、カラス天狗(♂)やハーピー(♀)めいた羅刹、そんな羅刹どもを束ねる渋めのイケオジ人間・司馬、有象無象の蝙蝠お化けながら集まると脅威すぎる怪物、蜘蛛のモンスターッ娘、なんか居ついている巨大蛸……ナーガめいた蛇族しかいなかった前作と比べても豪華絢爛ですし、そんなのがワチャワチャやってる画面密度の充実が堪んねェ~~~……!!
しかも、ソイツらが改造バイクやらゴツイ軽トラやらに乗りこんで、鎖つきの棍棒や銃をぶっ放して走り回るワンパク極まるアクションを起こすのだから大・大・大・興奮!!!ですよ!!!!!絵面が完全に『マッドマックス/怒りのデス・ロード』でして、そこでも司馬がセイに運転を任せつつ銃撃したり、走る車と地面スレスレに体がぶら下がったりのハリウッドもかくやというアクションを見せつけまくるんですからサービス精神が旺盛という他ない。

前作で若干困惑した爆速テンポの物語も健在なのですが、本作に関しては120%良い方向に働いていましたね。
牛頭馬面とのチェイスから、孫という女性がセイを助けてくれて、そこから彼女の所属するギルドに連れて行ってもらって、そこには色んな種族がいて、死んだら肉体が光に包まれて消え、現代人の孫から修羅界と文明の利器の使い方を教わり、修羅界ライフを苛烈に生き抜く…までの流れが10分以内で済まされるので非常にスピーディー&スムーズ。チェイス主体のアクションに見合った疾走感を演出してくれます。爆速テンポがバトル演出と物凄く噛み合っている。
登場人物も多いんだけど、こちらも爆速テンポで死んでいくので、覚える必要があまりないのも御安心だ!!……いや、でも本当、あまりに命の価値が安いので結構ビビるんだけど、この爆速テンポで消費される命ってのが修羅界の苛烈さや緊迫感に繋がっていて滅茶苦茶良いんだ。

とは言うものの、やはり後出しジャンケン気味な修羅界の設定や、輪廻転生といった日本人とはちょっと違った宗教観を前提にしたギミックがポンポン出てくるため、爆速テンポだといささか飲み込みづらい部分はあります。
因縁の相手である法海とのリベンジマッチとか、人間ながら滅茶苦茶強い法海を屠るための妖怪ならではの無法っぷりとか含めて面白かったけど、なんで今この局面で法海と闘っているのかイマイチわかってなかったからね。
ただ、修羅界という最高に楽しい世紀末ワンダーワールドを爆走してこれでもか!!と見せつけてくれるのはやっぱり超楽しいんですよ!!となれば、大筋はフィーリングで十分!!理解は後から追い付くくらいに爆速の映像美を楽しむに限るのです。

『白蛇』シリーズ通しての根底にあるテーマは「年月や時空を超越した愛」だと思っていますが、本作でも修羅界という苛烈な世界観に合わせて発展踏襲してくれています。
『縁起』ではハクとセンが最初から互いに想い合いながらも、種族の違いや対立に阻まれながらも結ばれていく恋愛関係が美しいものでした。
しかし、修羅界はそんな甘っちょろい恋愛に発展しない程に策略と暴力が横行している。そのため、セイは心を許せる男性に出会う度に裏切られ、誰よりも自立して逞しかった筈の彼女の生き様にも陰りが生じてしまうのです。
セイが物語中で「弱い」と蔑んでいた人間の男であるセンが、前作においてむしろ強すぎる精神力を以てハクを愛し抜いていたのと対象的ですね。

そんなセイの精神的支柱となり、修羅界を生き抜くための力を与えてくれるのが、序盤で封印されてしまった姉のハクなのです。
修羅界には絶対にいない筈のハクと時空を超えた姉妹の絆によって結ばれ、苛烈な世界で闘うだけの精神力を身に付けていくセイ。前作が異性との恋愛ならば、本作は文字通りシスターフッドという名の「年月や時空を超越した愛」へとアップデートされ、イカれた世界を爆速テンポで突破していく燃料となるのが熱い……!
この愛がもたらす強さを考えれば、法海の撃破方法にも納得がいきますし、最後の最後で捻ってきたまさかの展開にも目頭が熱くなるというものです。

ところで、ネトフリ配信版では日本語吹替版もついていたのですが、どう聞いてもセイがあやねるじゃなかったりで『白蛇:縁起』からはキャストが取っ替えられてるっぽいのがちと残念(日本語キャストは何故か表示されない)。
まあ、前作キャスト続投させたバージョンはチーム・ジョイさんがまた製作してくれると思うので気長に待ちましょう。続投キャスト版の場合、Snow Man佐久間大介くんの出番が冒頭チョイだけなのはジャニヲタの方々からしたら残念になるでしょうけれども……というか佐久間くん、本当に声の演技が本職と比べても遜色ないくらい巧いので、僕としても出番がちょっとだけになるの残念なんですが……

というか、今回の内容は「地獄の鬼と繰り広げるマッドマックス怒りのデス・ロード」だから配信じゃなくて劇場の大スクリーンで拝みたいんですよねェ!!しかも、エンドロール後のフック見るに、まだまだ続編があるというか……これやっぱりMCUよろしくなユニバース構想ありません!?!?
ここら辺はネタバレになるんで、終盤の考察併せてコメント欄で書きます。

超絶オススメ!!!!