映画監督が主人公という事で、お洒落で別世界の映画かと思ったら、主人公ジワンはかなり平凡な中年女性。
家庭も集合住宅で親子3人暮らし。生活感剥き出しの部屋。
威張った夫、大学生の息子、家計に余裕もなく、もちろん家事は妻の仕事。
何から何まで身近な存在だ。
こんな平凡な世界を、興味深いストーリーにする韓国映画は、やはりただものでは無い。
ヒット作にも恵まれず、仕事もろくにないジワンにきたオファーは、古い映画の欠落した音声を吹き込むという、地味な仕事だった。
その過程で、映画には失われたフィルムがあることが分かる。
当時を知る人たちを尋ねながら、自分自身もその世界へどっぷりと浸かっていく。
その古い映画は女性監督の作品という。
1960年代は、女性が活躍するには難しかった時代。
女性の地位も低く、理解も無い時代の映画制作の困難さが伺える。
差別と偏見の中で、いかに立ち向かったのだろうか。
出血多量で倒れたジワンは、子宮の摘出手術をする事になる。
これは、自分が女性ということを否が応でも意識せざるを得ないし、いかにも女性の象徴とも言える子宮を摘出した、複雑な心境も見せる。
“失われたフィルム”は何故カットされたのか、その理由にもちょっと驚く。
時代は違えども、同じ女性として、同じ仕事をしていた、女性たちへのジワンの思い。
“オマージュ”ってタイトルが、とても素敵に思えた。