ギリアドのメダボ野郎

オッペンハイマーのギリアドのメダボ野郎のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
2024/03/29(金) 08:50〜12:05上映回、 TOHOシネマズ新宿のスクリーン10、IMAX字幕版で鑑賞。

 客席はほぼ満員。午前中は雨がけっこう強めに降っていて交通機関の乱れでもあったのか、空席があったり着席が遅れている人がちらほらいた。

(以下感想というより鑑賞直後に入力したメモ)

 3時間ずっと目が離せないくらい映画としてはとても良かったのだが、内容が内容だけに「すごいおもしろかったです」とは日本人として言いづらい内容だった。
 特に「トリニティ実験」の下りは心臓がバクバクして、並のホラー映画よりも恐怖を感じた。

 ただ映画全体でみると、伝記映画でありながら主人公オッペンハイマーの感情の移ろいを軸に描いた文学的な作品だと思った。(日本の私小説に近い)
 それ故に作中にはドイツ人も日本人もロシア人も直接的には登場せず、「あの日」の描写も幻視という形をとって表現されていて、私はこれをノーラン監督なりの配慮だと感じた。

 当初日本だけ上映しないという判断がされたため、てっきり私は映画「イミテーション・ゲーム」やドキュメンタリー番組「プロジェクトX」の様に「ある装置」の製造過程をウキウキで描写するのかと思っていたが、実際はそんなこと無く、なぜこれを当初は上映しないと判断したのかよくわからないくらい、各所に配慮はされていると感じた。(あくまで戦勝国側の視点だが)

 私自身は生まれも育ちも東京だが、母方の祖父が広島出身で被爆者手帳を持っていた関係で広島に対しては複雑な感情を持ってはいる。
が、それはそれとして高校生の頃に読んだ『原子爆弾の誕生/リチャード・ローズ著』だと爆縮レンズの発明に至るまでの苦労が描かれていていたく感心したので、てっきりそのへんを詳しく描写すると思いきや「きみは爆縮レンズの計算をすすめてくれ」の一言で終わらせてしまっていたので、細部まで科学者たちをヒロイックに描かない様に徹底していて驚いた。(単に尺がたりないだけだったのかもだが)
 全体的にマンハッタン計画の話というよりも、後半はほとんど赤狩り関係の話であった理由も、オッペンハイマーを英雄として描かない為の装置であるように感じた。

 作中で唯一気になったのはアメリカ側全体が「日本は降伏しない」という認識を持っていたという描写があるが、この点についてだけ違和感があった。
 過去に読んだいくつかの本には日本からの降伏受諾の打診があることはアメリカ側はとっくに知りつつ無視し、軍部はもう民間人殺したくないんご&アメリカ人将兵の犠牲を減らせるなら天皇制さえ認めれば降伏するのならそっちの方が良くない?派VS天皇制認めたら弱腰と見られて失脚する&日本が始めた物語だろ無条件降伏しかありえん派で迷って、ソ連がしゃしゃり出るのを嫌ったトルーマンが発射決定って流れだったような。

 例えば『裏切られた自由~フーバー大統領が語る第二次世界大戦の隠された歴史とその後遺症/ハーバート・フーバー著』とかにはそんな感じで書かれていた。私が読んだ本が間違えていたという可能性は大いにあるが…
 そもそも無条件降伏にしても、当時の国際常識的にもありえんという話も『無条件降伏は戦争をどう変えたか/吉田一彦著』とかにも書いてあったような。
 なので日本が無条件降伏しないから原子爆弾を撃ったという話は完全に戦勝国側の理屈だよなあ。

 個人的に地獄への蓋を半分あけたのがオッペンハイマーたちだとすれば、もう半分を開けたのは大陸間弾道ミサイルを開発した人たちだと思うので、次にノーランが題材にするのはヴェルナー・フォン・ブラウンかなと思った。(小学生並の感想)