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BLUE GIANTのKKMXのレビュー・感想・評価

BLUE GIANT(2023年製作の映画)
4.4
 これはグレートなガーエー!若きジャズメンの成長と闘いを描いた作品で、バンドもの映画としても素晴らしいですし、音楽の説得力も桁違いですし、何よりアートの本質を見事に描ききっているのが最高すぎます。俺はズージャ弱者ですが、弱者であろうと強者であろうとモノホンのアートは人を撃ち抜きます。なので、撃ち抜かれましたよ〜😎


 仙台から上京してきたサックスプレイヤーの大は、宿無しのまま新宿をフラフラしているうちに才能あるピアニスト・ユキノリと出会います。ユキノリはエリートピアノ野郎ではじめは大を小馬鹿にしていましたが、大のサックスを聴いてそのヤバすぎるモノホン振りに撃ち抜かれ、バンドを結成します。しかし、リズム隊がいない。なかなか良いドラムが見つからず難儀します。そんな時に、大の友人・玉田がドラムをやりたいと言い出します。
 玉田は大の仙台時代からの友人で、大は玉田の家に居候している関係で、玉田は大のサックス練習にリズムキープ役で付き合わされたことがありました。ちょうど玉田は大学でアパシーを感じていたせいもあるのか、ドラムに興味をいだいたのです。ユキノリは素人のバンド加入を渋りましたが、大は意に介しません。結局、ユキノリも玉田の熱い思いを受け止めて、バンド加入を認めます。こうして若きズージャバンド『JASS』が結成されます。目標は、10代で名門ジャズクラブ『So Blue』に立つこと。そして……というあらすじです。


 物語として一番グッと来たのは、サックス野郎・大の天才っぷり。この男、アートへの認識が完璧で、まったくブレずに言っていることが全て正しい。アート活動をすると、娑婆世界の生臭さと折り合いが必要になります。だから、マーケティングとか余計な要素を考えるようになります。しかし!この男、そんなことは関係ナシッッ!「良いものを演る」「客に届く音楽を演る」「ソロは感情表現」etc…ぐうの音も出ないほどの正論!
 そして、この男の偉大なところは言行一致であることです。不安や欲望によってブレるのが人間ですが、この男はまったく不変です。本当にアートに向かい合っており、雑音が入って来ないんです。大は己のアートを実現するには、ひたすら練習するというイズムもブレない。雨の日も風の日も雪の日だって練習ですよ。それも、単に技巧を高める感じではなく、間違いなく己と対話してますね、練習中も。
 本質を掴んでいるから、素人の玉田をドラムにフックアップしたのでしょう。玉田はピュアで、本気でドラムに向かう人です。そのピュアさが人の心を撃ち抜くアートたり得ると見抜くんですよこの男は!玉田の件について、大は一度も逡巡も後悔もしないですからね(というか、大はアートの道を純粋に歩むだけなので葛藤はゼロ)。この絶対的な感覚、神の領域です!
 またね〜、大のジャズ認識が最高なんですよ!何故ジャズなのか、と聞かれると「熱いから」ですからね!でも、実際それなんですよ、すべてにおいて!大は本質しか見えていない。アートという地下水脈にアクセスする経路がたまたまジャズだっただけなのです。別にロックでもヒップホップでも、さらに言えば映画でもいいんですよ。ただ、大にとってはジャズだった。ジャズで天啓を受け、それに従って生きているだけです。そして、それこそがアートにとって絶対的に正しい。
 考えれば考えるほど、大というキャラクターは神の領域におりますね。近代人とは思えない。なんか夢のお告げでフランスを救ったジャンヌ・ダルクとタイプ的には近いんじゃないかと思いました。本作は若者のバンド映画なので主人公たちは精神的に成長するのがセオリーですが、大は一切内面の成長はしません。なぜならば、すでに完成されているから。刃牙で言えば花山薫みたいなモンですよ。彼は本当にアートの申し子です。大は圧倒的な天才。彼こそ真の天才です。

 そのため、青春モノらしい成長パートは、ピアノのユキノリとドラムの玉田が担当します。個人的には、玉田の成長物語にピンと来ました。
 ユキノリはピアノエリートで確かに上手いし才能あります。しかし、彼は大と違って普通の揺れる心を持つ人間です。ユキノリは作中でも大に指摘されていましたが臆病なタイプで、それ故に突っ張ったりテクで誤魔化したりして表現に支障が出ています。ジャズフェスに出た時も、メインバンドのファンにアピールするように研究しようとするなど、アートと相反する行動が目立ちました。結局、限界にブチ当たって苦悩するのですが、逃げずにちゃんと苦悩して過去を振り返り課題に向き合う姿勢が誠実で素敵でした。そもそも、臆病な人が勇気を出して臆病と向かい合う時点で、課題クリアなんですけどね。

 玉田は我々に一番近く、凡人代表と言えるキャラです。サッカー少年で、女子にモテたいみたいなシンプルなタイプですが、わざわざジャズドラムというスキルが必要な上に業の深いジャンルに躊躇せず飛び込む根性が凄い。彼も大と同じく、天啓に対して素直で率直なタイプなのだと思います。天才とエリートに挟まれて素人がドラムを叩くのは果てしなくプレッシャーのデカい作業だと思いますが、それでも玉田は愚直に、ひたすら愚直に練習を重ねます。悲壮感が漂う時もありますが、それでもなんか爽やかなんですよね。電子ドラム買って嬉しそうだったり。玉田は他2人と違い、プロとしてやっていくノリとは違います。このバンドで叩きたい、全てを燃焼したいというのが玉田のモチベーションなのでしょう。玉田はドラムにのめり込みすぎて留年しますが、それだけ彼にとって価値のあることなのです。本編の中盤で、玉田はライブハウスの常連である年配の男性に「君のドラムの成長を楽しみにしている」と声をかけられて感極まるのですが、俺も感極まりました!

 人が本質的な成長を果たす時に、異界体験は欠かせません。これまでの日常を離れて、異界で課題と向かい合い、戻ってくるとガラリと質的な変容を果たし、新しい現実を生きていく。玉田にとってのジャズとは、これまでとは違う日常、異界体験なのだと思います。そして異界人・大と共に異界でバンドを組み、バンドを全力で生き抜く。これこそがこの先の人生を玉田が玉田として生きるには不可欠なイニシエーションだったと思いました。玉田にとってJASSはまさに青春で、宝となり、玉田が玉田として生きる基礎体験となったのです。そして、本作ではこのことが密かにサラリと描写されており、ニクい演出だと思いました。
 

 このように物語も魅力的でしたが、本作のキモはやはり音楽!演奏シーンの音楽が最高オブ最高!すっげぇ良かったです!
 単にカッコいいだけではなく、音で演奏者の内面が表れるように感じました。大がユキノリと出会った時にソロを吹くのですが、ブルースや演歌のような情念が音に込められていました。あ、大とはこういうヤツなんだな、という音。ライブシーンでも、ソロになるとこの演歌魂が炸裂します。実際に途中で出てくる黒人サックス奏者の演奏はシルキーでスムーズ、大とはぜんぜん違うんですよね。この違う感じが表現されているのがイカします。ユキノリのピアノが覚醒前までは割と空気だったのもスゲーな、と。音楽監督が上原ひろみなので、モノホンの天才がガチで音楽とは、ジャズとはを突き詰めた劇伴になっており、心からシビれまくりでした。


 あえて苦言を呈するのであれば、ライブ中の3Dアニメがぜんぜんダメだったことですね。2Dはいいのですが、3Dになると突如違和感が。ずっと2Dでガラパゴスしてきた日本のアニメなので、致し方ないのかと思いましたが、いやいやスラダンとかスゲーじゃないかと思い直し、やっぱり工夫して進化して欲しいと願った次第です。
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