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ブラック・フォンのymdのレビュー・感想・評価

ブラック・フォン(2022年製作の映画)
3.7
話題性のあるホラー映画を数多く手掛けるブラムハウス・プロダクションズが『ドクター・ストレンジ』や『エミリー・ローズ』を作り上げたスコット・デリクソンとタッグを組んで制作されたオカルト・サイコホラー。

スコット・デリクソンは『ドクター・ストレンジ』においてMCUからの壮大でパースペクティブな世界観の要求に対して十分に回答ができていたとは言いづらいのだけれど、この作品では一転して非常にミニマムでこじんまりとした舞台装置で用いることで、その真価を発揮している印象を受ける佳作に仕上がっている。

小さな町で突然起こった子どもたちの失踪事件を巡るサスペンスフルなストーリーなのだけど、そこにオカルト要素を取り込むことで独特の風合いを持つ映画になっている。

その突飛な超常的な要素ゆえに、本格的で骨太なサスペンスホラーを期待している人にとっては肩透かしを食らった気持ちになるかもしれない。

そのオカルト要素自体も丁寧に下地を敷かないテンポ重視なもので、考察の余地を楽しめるといえば聞こえはいいが、単なる説明不足であると思わざるを得ない。

映画全体が100分少しとタイトな作りになっているのは良いことだけど、あと10分くらい消費してでも前半にその伏線を張っておいてほしかった、というのが感想だ。

そういった構造の粗はさておき、ジュブナイルホラーとしてはよくできている。
ひ弱で繊細な少年と気丈で兄想いな妹が主人公である本作は、タイトル通り「ブラックフォン」をマクガフィンとして恐怖に立ち向かい、成長していく様子はジャンル映画としては非常に王道かつ爽快なものになっている。

ホラー映画としては火力不足であるの印象は否めないが、地下室のジメっとした不気味な空間設計と隔絶された絶望的な状況の悍ましさは十分に演出されているし、とにかくイーサン・ホークの常軌を逸した怪演こそが最も恐ろしい。
その異様なマスクのデザインも含めて忘れがたい強烈なインパクトを残すホラーアイコンとなっていた。

どう表現したら良いか分からない後味の幕引きもなかなか秀逸だった。

主人公にとって日常に戻ることが果たしてハッピーエンドなのか、それとも・・・
という微妙なニュアンスが残るエンディングをどう受け止めるかは人それぞれだと思うけれど。
その余韻の不気味さこそが本作を何よりもホラー映画たらしめていたかもしれないな。
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