ゆめちん

ゴヤの名画と優しい泥棒のゆめちんのレビュー・感想・評価

ゴヤの名画と優しい泥棒(2020年製作の映画)
3.5
ゴヤの名画と優しい泥棒
 
"事実は小説より奇なり" という諺を地でいくような物語で、1960年代のイギリスで実際に起きた美術品盗難事件を映画化したもの。昨年65歳で亡くなった "ノッティングヒルの恋人" のロジャー・ミッシェル、その軽妙な味わいを十分に堪能。
 
1961年、ロンドンにある美術館でスペインの画家ゴヤの絵画 "ウェリントン公爵" が盗まれる。犯人である60歳のタクシー運転手ケンプトンは、絵画を人質に政府に対して身代金を要求する。
 
冒頭、タイトルバックの分割画面とクラリネットによる軽妙な音楽で、瞬く間に心掴まれる。税金の無駄遣い、人種差別、公共放送の受信料など、現代にも通じる様々な社会問題も散りばめられ、物語はテンポ良く進む。派手さはないものの作品全体がユーモアに溢れ、ずっと頬が緩みっ放しに。
 
理不尽なことには黙っていられない夫ケンプトン、我慢しながら堅実に生きる妻ドロシー、この対照的な夫婦の存在が、"正しさとは何か?"を観客に問い掛ける。そんな老夫婦を演じた、イギリス名優二人の掛け合いが、本当に何十年も夫婦でいるような雰囲気を醸し、楽しみながら演じているのが伝わってくる。
 
主人公がユーモア溢れる語り口で、傍聴人はおろか陪審員や裁判官まで虜にしてしまう答弁シーンは、ジム・ブロードベントの独壇場。
妻ドロシー役のヘレン・ミレンは個性の強い役柄を多く演じてきた印象だが、本作ではオーラを完全に消し、労働者階級の主婦になりきり、その演技の振り幅はさすが。
息子のジャッキー役は、"ダンケルク" での好演が記憶に新しいフィン・ホワイトヘッド。本作で実は隠れたキーマンとなる重要な役どころを演じ切る。
 
60年前に彼が訴えたBBCの受信料制度だが、英国では2000年以降75歳以上のすべての高齢者に支払いが免除され、ここ最近では受信料制度廃止も視野に入れ検討しているとのこと。
ネット配信が充実し選択の幅が広がった今、NHKの受信料についても、見直す時期にきているのではないかと思う。
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