真田ピロシキ

しかたなかったと言うてはいかんのですの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

4.0
第二次世界大戦末期に福岡の医大で起きた米軍捕虜への人体実験手術を原案にしたドラマ。原案となったノンフィクション小説はドラマの主人公となる助教授の姪による執筆で、NHK職員の息子が6年かけて実現させた企画というのでそれを知っているとより強い血肉を感じさせる。

8月13日に放送するのは勿論毎年やっている終戦企画で風化していく当時を忘れさせないためのドラマであるが、このドラマはかなり踏み込んでいる。まず主人公の鳥居助教授は普通の手術と聞かされて立ち会ったものがおぞましい人体実験で即座に良心の呵責を感じるのだが、軍が同席しているその場で逆らう事など出来ず消極的に参加してしまう。その上にもう終わっている事を期待して遅れて手術室に入るもまだやっていて結局2回目にも加担してしまい、「仕方なかった知らなかった」そんな理由で犯した罪の重さが描かれる。しかしこれは決してこの鳥居医師だけの特別な事例を裁いた話ではなくて、軍部に騙されていたという顔をして戦争協力をしていた大多数の日本人にも潜んだ視線が向けられている。鳥居の子供を「人殺しの子」と言ってイジメる子供達や厄介な鳥居への証言を拒む同僚の存在など、戦犯をスケープゴートにして自らの罪には非自覚的な当時の普通の日本人様への皮肉をヒシヒシと感じる。そしてこのドラマは昔話で終わらせるつもりはなく、現在のどんな悪政や差別が蔓延っていっても、選挙にすら行かず声を挙げている人こそ非難して頑なに不干渉を決め込んでるような連中の事も見ている。ああいう手合こそ本物の害だ。そうした今の世の空気に「しかたがなかったと言うてはいかんのです」と老いた鳥居が訴えかける最後は力強くて、それを聞く記者の構図がマスコミとしての戒めにも感じられた。NHKの事は体制寄りのTV局としてすっかり嫌っていたがドラマ部門の矜持を見せつけられた。