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五月の青春のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

五月の青春(2021年製作のドラマ)
4.6
2023年の見納め作品。
1980年5月に起きた光州事件を背景としたドラマです。

光州事件については、それ自体を描いたものや事件を背景にした「タクシー運転手」「光州5.18」「ペパーミント・キャンディ」といった作品を見てきてるので、市民による民主化運動を軍が弾圧し、内戦さながらの多くの犠牲者を出した事もある程度知っているだけに、辛いのがわかってるから見るのを躊躇いましたが、ほんとに素晴らしい作品で、この作品で今年を締めくくれて良かったです。

1980年当時は軍事独裁政権下なので、保安部が北朝鮮のスパイと見なした市民を拷問していて、恐怖政治みたいなところもあったでしょうが、それでもこんな恐ろしい出来事が起きなければ、ヒテとミョンヒは美しい5月に出会って、愛し合い、煌めくような青春を謳歌したであろうし、これだけ多くの人が家族や大切な人を突然失ったり傷つけられたりしたことに、もう40年以上前の事とはいえ、とても胸が痛みます。

この作品では、民主化運動に関わった学生への拷問も描かれていましたが、ただ道を歩いていただけで、バスに乗っていただけで軍に襲われて激しい暴行を受けたり、刺されたり撃たれたりもして、民主化運動に関わりのない人も巻き込まれていた事が描かれていました。
実際は、そんな状況下でも何万人という市民が命懸けで抵抗し、デモや占拠を続けたという事なので、闘った人達がこんなにたくさんいたという事に驚きます。

ある日突然、これまでの平穏な日常が奪われ、理不尽なかたちで命が奪われ、犠牲者や周りの人達の人生が奪われる、そんな事が本当に恐ろしかったし、当時光州にいた50代以上の人はこの事件を経験、記憶してるわけですから、単に過去の出来事にはならないのだと、まだその事を抱えながら生きている人がいるんだという事も伝わりました。

ミョンヒとヒテの最後の手紙は、大切な人を奪われた苦しみや悲しみの中で生きていかなければならなかった人達への、あたたかい慰めのような言葉で綴られ、涙が止まりませんでした。

印象的だったのは、軍の兵士が、市民に対して平気で暴力を振るったり殺したりするのが描かれていたことです。
もちろん、その時たまたま兵役に就いていて、市民を鎮圧する側になってしまい、抵抗や葛藤をおぼえる兵士もいましたが、相手を敵だと思うと、人間はあんなに残酷になれるのかというのが、すごく恐ろしかったです。
ちょうど今、イスラエル軍がガザの人達に対して、相手が子どもであろうとも容赦なく踏み躙るようにして殺していってるのと重なり、胸が苦しかったです。

キャストがとても良くて、イドヒョンが素晴らしい!
今まで見たイドヒョンの作品はどれも良かったんですけど、ほんとにヒテを魅力的に演じていました。
家族内でも孤立し、友達からも父親の仕事柄信頼されず、自分の意思で選択することも生きることも許されず、ずっと孤独を抱えて生きてきたのに、誠実で一途で、それが切なかったです。
イドヒョンの作品、もっと見たい!

62
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