ゴトウ

エルピス—希望、あるいは災い—のゴトウのレビュー・感想・評価

4.0
面白かった。しかし放送当時と比べてしまうともはや現実がフィクションを上回ってしまっている感はあり、どう考えても大門のモデルであろう麻生太郎は今日も今日とて好き放題だし、何を言っても罰されない。この手のエンタメ作品でガス抜きされているのも豚人間っぽい気もしてなんだかなという感じもある。作り手の志は高くあるのもわかるし、テレビ讃歌、ニュース番組讃歌として素晴らしいとは思った。岡部たかし演じる村井さんみたいな、チャラチャラした業界人のおじさんも内に熱いものを秘めていてほしい……というのもまあ願望ではあるのだけれど。女子アナに代表されるように、客体化され消費される女性の憤り、豊かで安全な場所から振りかざす使命感の空虚さ、生き方を変えることに伴う痛み……等々、切実で泣かせる場面は多々あり、評判の良さは伊達じゃない。

大きなものに立ち向かおうとする人、「大人になれ」的な物言いで足を引っ張ろうとしてくる人、自分だったらどうするかしらと思わされる。浅川も岸本もブレるし、諦めたり、目先のエロいイベントを優先してしまったりするのが人間臭いし、打算や保身のことも考えていたりする。「君みたいなお金持ちの家に生まれた子はそうやって捨て身でいけるかもしれないけど……」みたいなセリフは真に迫るけれど、それが岸本を止める理由になるわけでもない。富裕層の子弟が“woke”なことを冷笑する向きもあるけれど、金と暮らしに余裕がある奴こそ声を上げるべきなのであって、少なくとも「努力不足」などと他者をあげつらうより億倍いい……。そこで折れなかった岸本はかっこいいし、それが最後には実を結ぶのが(夢物語としてかもしれないけれど)暖かい。

権力に飲み込まれて徐々に人相が悪くなっていく鈴木亮平、第一話の時は苦労を知らない坊ちゃんにしか見えなかったのに、自分の責任で戦うことでどんどん鋭くなっていく眞栄田郷敦、死ぬほど綺麗なのに歳で「ババア」呼ばわりされまくる長澤まさみ(実際の女子アナもそうやって消費されているだろう)ら、俳優の肉体が物語に凄みを持たせている。抑圧されている浅川は食事ができなくなり、睡眠が取れなくなる。声にならなくても体が悲鳴を上げている、という演出もあって、キャラクターの身体性(テレビの中の人だって生きてる人間である)も強調されているような気がした。

主題歌は『大豆田とわこ』を受けてのものだったのかな?あっちほどはピンときませんでした……。
ゴトウ

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