ゴトウ

池袋ウエストゲートパークのゴトウのレビュー・感想・評価

池袋ウエストゲートパーク(2000年製作のドラマ)
4.5
めちゃくちゃ面白い!多感な時期にこのドラマを見て、いったい何人がおかしくなってしまったのやら。今の目で見ると超ゴージャスなキャストの面々、ミレニアムの浮かれた空気と淡々とした暴力、今はみんなが意図的にフィルターで作りたがる「あの」質感の映像、こういうのこそ歴史に残るドラマなのだろう。マンガと比べればうるさく言われる印象はない小説原作ではあるけれど、思い切った改変(だってただの窪塚じゃんあれ)だって悪いことばかりではないよな……と再確認させられた。オタクにも発達障害にもセックスワーカーにも不法滞在の外国人にも、分け隔てなく接するマコっちゃんやGボーイズ。いわゆる「ファンタジーヤクザ」やガバガバの定義で勝手に核心をついた一言を言うための存在にされている「ギャル」みたいなものだろうけれど、少なくとも作品の中のキャラクターたちとしては愛らしくてよかった。現実のカラーギャングなんて相当怖い存在だったとは思うけど……。下品でだらしない警察官たち、露骨なエロ、暴言、なにも80年代まで遡らなくても、2000年も十分「不適切にもほどがある」描写だらけだった。阿部サダヲあんまり雰囲気変わってない。

堤幸彦の作品として認識したことはなかった(どうしてもクドカン作品、と思ってしまっていたので)けれど、変なアングルや編集など、映像も割とつっこんだことをやっている印象。次から次へと事件が起こるストーリーと相まって、終始テンションが高い。「めんどくせぇ」と言いつつ、毎回ビシッと事態を収拾するマコト。小説の方はもう少しハードボイルドな印象だったけれど、マコっちゃんはじめみんなどこか間の抜けた愛らしさが強いのはやっぱりクドカン節なのかしら。間違いなく最強のカリスマであるキング・タカシと対等の関係を持ったまま、どこにも属さずにトラブルシューターをしているマコト。見方によっては泥を被らずにいいところだけかっさらっていると言えなくもない。だからこそ、クライマックスに身を挺してカラーギャングの抗争を止める場面は感動的だし、考えてもわからないけどブクロで血が流れてほしくない一心で「殴れよ」「刺していいよ」「死ぬの怖いんだよ!」と正直すぎる本音を叫ぶマコトが愛らしい。そしてその本音が、得体の知れない恐怖によって暴力に駆り立てられているGボーイズたちの目を覚まさせるのも納得感あるし、「友達がやられたから」という理由で報復してよしとならない作劇からはある意味ではドライさも際立つ。同じ街で生きている人たちにはどこまでもおせっかいを焼くマコトの人情が描かれる一方で、死んだ人のことはあっさりと忘れられていく(リカを気にかけてヒカルとの距離を縮められずにいたマコっちゃんでさえ、特別編ではいけふくろうからシュンを連想しない)。リカ、救えなかった組長の娘、争いの中で命を落としたカラーギャングたち、次々起こるトラブルの中で死者たちは次々忘れられていく。能天気な会話に隣り合う暴力や死、世紀末の狂った日常は刹那の快楽を生きている(少なくとも側からはそう見える)若者たちへの皮肉な目線でもあり、生きている人間がその日々を必死に生きることの肯定でもある。ただ暴力の清算としてキングが刺される(それも少女に!)というラインは誠実というか、「とはいえ人に迷惑をかけまくってるじゃん、人死んでるじゃん」という部分の精算(にはなってないだろうけど)がちゃんとある。

散々フリがあったのでどうなるのかと思って観ていたけれど、安易に警察権力の一員という形でマコトの将来が収束していかなかったのもよかった。悪いこと(法)とダサいこと(ヤクザやギャングが通そうとする「筋」)のどちらかに振り切ることで取りこぼすものがある。それら全部を拾おうとするのは、何よりもめんどくせぇ。マサや電波くんのように大きなものに所属する!と決めてしまう方が安心なのかもしれないけれど、それでも不安や危険のなかで自分の信じる道を行くマコっちゃんの「ブクロ愛」はヤンキーかもしれないけどマイルドじゃねえ。泥を被っているようでいて、どこか自分自身のしていることに疑念もあったであろうハンサム署長。自分以上に泥を被り、一応は事態を丸く収めたマコトに惚れ込むのも自然だ……。 20年経って「中学生に戻って東京卍會!」になってしまうのは退行なんじゃないかという気もしてくるが、こんな殺伐とした時代も「戻りたいあの頃」になってしまうくらい、令和の世がハードなのかもしれない。

実際の地名を使った作品として当時の空気感をどれくらい正確に描き出しているのかはわからないけれど、ここまでハイテンションで綺麗に終わって、特別編一発でその後ダラダラ続編出たりもしてないのがまた伝説感を演出しているよなあ。あまりに強烈なキャラクターたちは後世に多大な影響を及ぼしていることは間違いなく、かくいう自分も観終わってから「めんどくせえ」とか言いたくなってしまった。「悪いことすんなって言ってんじゃないの、ダサいことすんなって言ってんの」は強烈すぎるあまり、ダサいやつが引用しがちな言葉になってしまった。窪塚とキングのイメージってほぼ混同されているし、実際の窪塚の飛びっぷり(いろんな意味で)も相当なものだと思うけれど、あれくらい本気でクレイジーなやつが言わなきゃ「悪ダサ」も説得力ないセリフだよね。

『クウガ』と同じ年にきたろうがこんな役もやってたのか……という面白さもあった。ジェシーやキャシーのビジュアルはどこかグロンギにも見えて、確実に「街中のわけのわからない若者」のビジュアルイメージが『クウガ』におけるグロンギには投影されていたんだろうな……と思ったりもした。同時代の作品でも「若者像」が違うのは作り手の世代ギャップなのかな。
ゴトウ

ゴトウ