ゴトウ

不適切にもほどがある!のゴトウのレビュー・感想・評価

不適切にもほどがある!(2024年製作のドラマ)
3.8
賛否両論、というか、不用意に「毎週楽しんで観てます」とか言うと非難されかねないくらいの熱量で注目を集めていたように思うけれど、僕は楽しく観ていました(こんなの楽しんで観てるなんてクズだ!と思われてたらすみません)。ただ「昭和」とか「令和」という括りはやはり大きすぎた。いかに作中で「どっちにも良いところと良くないところがある」と言ってはいても、「昭和のオヤジがウジウジした令和にパンチ!」という構図になっている場面も多い。「昭和」サイドでは時代考証の誤りが指摘され、「令和」サイドでは言葉の使い方や理解の甘さが非難される。「俺の家」とか「西口公園」とか、限られた空間の私的な人情話ならこんなにも批判されなかったんじゃないかという気もした。実際、ごく小さな輪の親族間での話は泣けたし、その部分のために観ていた節はあった。が、「令和の息苦しさ」的描写にはうなずき難い部分もあり、特に最終回の「寛容になりましょう」は「寛容と甘えは別」の一節だけでは「トーンポリシングだ!」という反発を避けられないのでは。寛容のパラドックスを引くまでもなく、「バカだからよくわかんねえけどよ…」は本当にわかってなかったら意味ないのよ。

個人的な愛や友情、人情話の部分は毎度泣かされた。河合優実演じる純子先輩が素敵すぎる。リアルタイムでスケバンに酷い目に遭わされてたりしたらこんなこと言えないだろうけど(そこに「寛容になりましょう」とはやっぱ言えないよな)。親子関係がどこまでも無条件に美しいものとして描かれているのとかもケチつけようと思えばつけられるのだろうけれど。死別した親族と時を超えて会い、単に友達として優しい言葉をかけてくれたら……というささやかだけど絶対不可能な願いがかなったらやっぱり泣いてしまうでしょう。ミュージカルで力技解決、コメディタッチの娯楽作品に見えて、「関係性の破綻や災害による死別などの運命を事前にわかっていて受け入れる」というヘビーな側面もある。小川もおどけた態度でいるものの、途中から自分が未来の世の中で生きていないことをわかっていて令和の人間たちと関わっている。誰がどこまで何を知っているのかが曖昧なので、たとえば岡田将生と純子がどこまでお互いのことをわかっていて、岡田将生がその場から立ち去ったことを純子はどう思っているのかとかも全く見えてこない。最終回で示唆されたタイムトンネルの存在と、その発生にはバス型タイムマシンでキヨシが不登校の佐高と友人になっていることが必要になっていることも含め、タイムトラベルによる時系列への干渉で明らかに過去が変わっている。しかしそれを使って自分や純子が生存するように世界を改変するとか、そういう作りにはなっていない。あくまで「そういうふうになるかもね」というだけの希望が残る。

しかしとくにサカエさん周りがよくなさすぎたな。トンチキな社会学者をメディアが担ぎ上げたりするからこうなったという面もあるかもしれないが、さすがにふわっとしたイメージでこんな描写したらあかん。「ミソジニーを拗らせて男に走っているだけ」発言とか、さすがに笑えなかった。恋をして自分のアイデンティティに悩み始めるとかもなんだかなあ。やっぱり「おじさん」「おばさん」は比較的いじってOKな属性という認識になっているのだろうけど、「社会学者」とか「インティマシーコーディネーター」と「インフルエンサー」「マッチングアプリ」とが、なんか流行りの言葉みたいな認識でグチャグチャに言及されているのが問題だろう。人は配膳ロボットやスマホのような機械ではないのだから、「アップデート」していない相手と対話を諦めなくいで一緒に生きていこうよ!というのはわかるけれど。それがアップデートしない側の言い訳みたいに見えてしまうのがよくない。ノリは軽いのに登場人物たちの(というか純子や市郎の)選択は重々しいという作りはカッコよかったのに、適当な語用で本当に軽薄になってしまったのが残念。「虎と馬」はギャグで通ったけどこれはちょっと……。たとえばサルゴリラ児玉のオネエ風味の演技とかも、それ自体を笑いにしようとしている(ように見える)のでノイズになってしまう。

しかしそれよりなにより、ドラマや映画観てる時に急にDJ松永の顔見たくないんだよな。『浅草キッド』と同じ冷め方したわ。『IWGP』の川崎麻世やRIZE、今作ならキョンキョンみたいな、クドカン節のご本人役登場なんでしょうけれど。『いちばん好きな花』(すっかりドラマの嫌なところ話す時に出す作品になってしまった)の最終回で脈絡なく藤井風が出てきた時も思ったけれど、この手法って作り手側以外で喜ぶ人はどれくらいいるのかね?歓迎してるのは歌ってる人の熱烈なファンくらいで、急にテレビ番組としての側面が強調される感じがして嬉しくない。
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