真田ピロシキ

ブレイキング・バッド ファイナル・シーズンの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

4.8
全シーズンまとめて感想。その気になれば見返せるくらいの長さですが、今のところ見返す予定はありません。私、主人公のウォルターが大っ嫌いなんですよ。コイツほど邪悪な奴はそうそういない。で、長く続いてるってことは上手く生き残ってるって事。これはかなりストレスで。だけど悪事に手を染める人間の物語としては最高に刺激的で見てる時は一気見でした。ウォルターの野郎め。

「スカイラー、私は家族のためにやっているんだ!」「あなたの言う家族のためから私は家族を守っているのよ!」このやり取りが家族を言い訳にして犯罪を重ねるウォルター・ホワイトという人間を如実に物語っていて、全てが明るみになった時息子に電話越しで「何でまだ生きてるんだよ。死んでしまえ!」と罵られてやっと自覚するんですね。何も家族のためにやってなかったと。最終的に本心がどうあれ、自分のためにやっていたと言えたのは遅すぎた贖罪。一生息子には憎まれ、赤ん坊の娘には恐らく存在すら知らせてもらえず、妻の心には消せない傷を残す。建前であった家族へ金を残す事も出来ない。そこまで誤っていると嫌いでもウォルターが多少気の毒で、この男でなければ得られなかった深みを感じ入ってしまうのです。

「家族のため」には嫌悪感しか抱けなかったウォルターだが、相棒のジェシーに対しては違った印象。教師時代に少し自分の授業を受けただけの落第生で親しくもなければ優秀でもない。たまたま一緒に麻薬ビジネスを始めただけに過ぎないのに切り捨てない。自分を尊敬してた男を殺しても、ジェシーはどうにか救おうとする。ここにウォルターの良心が僅かに残っている。「確かに子供に毒を盛ったが死ぬような量を私が盛るわけないだろう」怒れるジェシーに対しての返答がこんなものなので、やはり頭のネジがぶっ飛んでいるのであるが。稀代の大悪党であるウォルターと典型的な小悪党ジェシー。この不釣り合いな2人は確かなバディ。例えジェシーの方では嫌がっていても。

スピンオフである『ベター・コール・ソウル』はジミーがウォルターよりずっと共感しやすい人間なので安心して見ていた。しかしシーズンが進むに連れて堕ちていく人間性。悪に染まることは決して特別ではないことをこのシリーズは見せてくる。好き嫌いは別として歴史に残るべきドラマ。