モモモ

ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウスのモモモのレビュー・感想・評価

4.5
1話(10/12)
日本だと知名度が不足しているフラナガン監督の超上品で超怖い幽霊屋敷×崩壊した家族再生譚第1話。ヌッと…ピンボケ背後に現れる首の折れた女。ヌッとカメラワークの変更で現れる首の折れた女。父に抱かれて走った廊下で瞬間見える、迫り来る女。怖い。雨漏りからのクラクション、部屋に入ったとの兄妹間での通達、スケアジャンプ気味の「音の演出」は「幽霊ではない」シーンに。ラスト、そこに立っている妹。鳴る電話。知る訃報。ではそこにいるのは…?怖い、怖すぎる。間をおかず距離を詰めて、兄は初めて「幽霊を見る」。完璧な第一話。

2話(10/14)
兄妹一人一人に焦点を当てていくドラマだからこその構成。子猫の死(虫が口から出てくる不快感という名演出)、母の死、そして妹の死。母の死体を(最後の慰安室に現れた母の傷ついた死体=トラウマの追体験なので彼女は死体をはっきりと見たのだろう)綺麗にした仕事に就いた彼女が追想する妹の晴れ舞台での化粧。重なる遺体への化粧。なんて辛い話だろうか。スケアジャンプではない(終わりは音や画でびびらせてくるが)ジメッとした居心地の悪さ。弟への助け舟に2度目はなかった。崩壊していた家族。崩壊を止めれなかった家族。

3話
埋まっていく時間軸。それぞれの視点、それぞれのトラウマ、それぞれの思い出。潔癖症ではなく特殊能力。フラナガン作品としては「お馴染み」の題材。1、2話もそうだったけど、過去と現在をシームレスに繋げていく脚本構成が最高。何も見ていない兄は本にして、死を克服したかった姉は死化粧師に、そして触れただけで心の底が見える彼女は心理学を極めた。ヒルハウスの名残が今も家族を蝕んでいる。死体の触れてみたビジョンとは、父に掴まれて見えたビジョンとは、物語の種明かしが詰まっている。冒頭の沈むベッドや地下室でヌッと現れる手、ジメッとした恐怖演出が最高。

4話
1番好きなキャラはルークですね。末っ子で、問題児で、誰も信じてくれないとのシコリを抱えている。感情移入しかできない。裏切ってきた自覚はあるが、裏切られて初めて気付く失望と落胆。その始まりが幼少期の心霊体験(これは嘘じゃなくマジ)ってのが切ない。双子のみが体感する恐怖。首折れ女に、宙に浮く紳士。ヴィジュアルインパクト抜群。ゆっくりとベッドの下を覗く恐怖。回想以外では1話のラスト(妹の亡霊)のみが超常で、それ以外は心のトラウマ。セラピー・ホラー。

5話(10/15)
物語の折り返しで1話を超える大傑作エピソード。兄妹一人ずつに焦点。真ん中で物語の発端の妹にフォーカス。信じてくれないとの屈折を抱えていた双子の兄と同じ思いを抱えている。二人だけが体験した超常現象。兄と姉は体験していない。度々現れる首折れ女の種明かし。正体が判明した時の表現し難い鳥肌。凄い。怖いんですよ。すごく怖い。ジメッとしてて、それでいてエンタメで。BTTF的SFホラーとでも言うのか。絶叫にもNOにも意味がある。フィックス主体、ドリィとパンのみのカメラワークが最高。今と過去のカットバック、廃れた現実と在って欲しかった理想のカットバック。何が起きたのか徐々にわかってきたが、遡らなければいけないのは更に過去。現状、ベストエピソードの1つ。

6話
ベストエピソードに次ぐベストエピソード。1シーン1カット長回しリレー。凄いなこれは。1カット長回しの中で演技合戦、追憶の記憶、そして恐怖を両立させる。だからこそホラー映画としてはオールドスクールな作りになっているが、それがいい。首折れ女の正体がわかった前話から一転、恐怖ではなく悲劇の対象に。2度泣いてしまった。喪失の物語。家族の悲しみと怒りが爆発しすれ違う。ずっとここに居たのに。サイレントヒルの元ネタの一つを垣間見た。作家的で、職人的。

7話
兄妹の描写が済んで、折り返しポイントを経て、家族が集合した末に焦点が当たるのは待望の父。心を病んだ父。超常の類はあるが同時にトラウマが見せる幻覚も。末っ子が母の亡霊と妹の亡霊を見たのだから、父に寄り添う母は本人の通りの幻影なのだろう。残り3話があるので幽霊屋敷のネタバラシとはいかない。ドラマ構成らしいクリフハンガーで幕を閉じる。薬物による盗みではなく、ヒルハウスに向かったのだろう。父と娘は亡霊を見た。これ以上隠し続ける事はできない。

8話(10/18)
フラナガン演出はゾッとするんだよな…心霊物だからなのか、白さがありながら生々しさもある霊の造形のせいなのか、鳥肌が立つ。運転中のスケアジャンプ。ここぞでの恐怖。死後の世界はない。あるのは暗闇。無。怖いなぁ。病んだ家族、原因は妄想じゃない。そこに唯一触れてこなかった、信じてこなかったと思われていた兄も実は無意識に触れていた。むしろ、最後のトリガーをひいた存在なのかもしれない。ラストで恐怖を叩き込まれた。

9話(10/20)
家族全員の回想は終わり…と思いきや、そうでしたお母さんがいました。謎が埋まりつつある解答編前編。父は何故隠したか。双子を殺害しようとした母の事を隠さないわけがない。家に取り憑かれた、時空を超えて、子供の死に怯えた母。全ては悪い夢で、何故目が覚めないのか。恐怖演出は控えめだが、母のやるせ無い投身自殺に涙が込み上げた。私がいなくても大丈夫。本当にそうだろうか。

10話(10/22)
恐怖の対象だった心霊屋敷の謎が解けた時、そこは死者との永遠を刻める願いの場所に変わる。あのシーンの意味ってそう言う事だったの!?から、まさかの回想方式でラストを飾る…?との連撃冒頭でかますフラナガン脚本が最高。「いや、そう言われたらそうだね…」と記述トリックを映像でかます「実はみんな赤い部屋に…」展開とアビゲイルの正体の反転。観客の予想を見事に覆し、辿り着く「何故父は歪な隠蔽に及んだのか」の完全解答。二つの家族の願い。この手の作品で「諸悪の元凶をぶっ壊す」ではない悲しい終着点。そこは呪われた家で、人の自死を引き起こす場所だが、死を越えて永遠を共にする願いの場所でもある。我々は幽霊に何を観るのか。大傑作ホラー。
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