モモモ

マインドハンター シーズン1のモモモのレビュー・感想・評価

マインドハンター シーズン1(2017年製作のドラマ)
4.4
1話(9/14)
失敗で始まり失敗で終わる第一話。敗北から何を学ぶか、自分の立ち位置を知るか。知的な主人公の多弁を演出するのはフィンチャーの十八番。左遷で教官になるが自分に足りない物、そして当時のFBIに足りない物である「専門性」を求めて大学に、警察に。「根っからの犯罪者」との偏見を正す為の物語。所詮は人だ、原因はある。

2話
1、2話がセット。本エピソードからフルスロットル。「セブン」的バディ物とサイコキラーとの対話による緊張感と転々とする講師生活の狭間での捜査協力。卵サンドを押し付けて、些細な言動で空気を凍らせる男との「対面」による緊張感。喉を触られた時の冷徹な空気。バディが揃って対面した時の安心感。愚直で不器用な若者を渋々ながらサポートするベテラン。ミソジニーの本質、逆恨みの本質に切り込む、機能不全家庭の物語。超面白い!

3話
「母への愛憎」で繋がりアッサリとした解決。情報が更新されれば過去の推理を即座に捨てる優柔さが良い。警察&FBIでボーイズクラブを。そんな中でも空気を壊すインテリ主人公とサポートするベテラン。良いコンビだ。弱者男性、カースト下の白人男性を、彼女や妻を持つ真っ当なFBIが…って話は危ういな…と思っていた中での「運が良かった」発言。誰もが彼らになり得るとのミソジニー解釈で安心。教授も参戦で更なる躍進!

4話
各地での捜査物、組織としての成り上がりチームアップ物。ドラマだからこそ描ける主要キャラ達の詳細なバックグラウンド。理解できない養子、理解できない犯人達。母を憎み、父を求める。不在であった無責任な父親達を。前話から出てくる「融通の効かない男」の不気味さと居心地の悪さと断片的な描写もドラマシリーズだからこその構成。足を引っ張ろうとする無能がいないので真の意味でのストレスがない。静かに微笑む3人のラストショットが良い

5話(9/18)
うーん、すげぇドラマだ。やっぱり「有害な男らしさ」に切り込む犯罪物なんだな。冒頭での尋問では主人公二人に対して「やりすぎじゃない?」と思ってしまうけど「サイコパスは擬態する」との弁でその同情が揺らぎ最後には…と。ホモソーシャルの連帯感の物語で、殴ったのはアイツで、刺したのはアイツで、文字通り「わからない」着地。主人公が助言を求めるのはいつも知的な二人の女性で、分析しながらも彼女の過去に若干傷つき…。ドラマだからこその奥深いキャラ造形だ。

6話
「わからない」もブラフ。詳細な事件の全容を解き明かすが、理解してくれない検事。全てが徒労だろうか、田舎、それでも…。妻とは会話が少ない男、恋人に諸々を話すが教授に恋心も抱いているであろう男、同性愛者であることを秘めている女。「自分を演じる」事から降りる舞台を持っている人間は誰もいないのではないだろうか。そして殺人鬼達は「自分を演じる」のをやめた存在なのではないだろうか。事件を解決し、資金を得たが、待っていたのは手痛い敗北。紐を縛る練習、誰かに出した手紙、不穏だ。

7話
身を切る想い。現場で体感してる捜査官と机上の空論で闘う専門家とのすれ違い。異様な事件にストレスを受けて家庭とのバランスを失っている男。対する相棒は大丈夫…かと思いきや、自分が仕掛けた「靴」が私生活でフラッシュバックとなってしまう。身を切って調査を進める男達。事件(殺人鬼)には向き合えるが息子には向き合えない。子猫は何を揶揄しているのか。殺人鬼達がちゃんと「そこにいるだけで不穏」なのが緊張感を齎してくれていて良い。どいつもこいつも巨漢で怖い。「男らしさ」の物語。

8話
「孤立」する8話。シーズンフィナーレに向けての助走だろうが、中々のシンドイエピソード。相棒は離れて単独行動に。直感で(観客も同意する)怪しい校長を調査するが、その結果相棒と上司に攻められ、新入りには告げ口される。いやいや、面と向かって会ったら怪しい男なんだって!とのペド校長だが「前科持ちじゃないんでしょ?」と周囲は理解を示さない。頼みの恋人は別の男とイチャイチャ。残ったのは無力感と「警戒するに越した事はない」との結論。それが吉と出るか凶と出るか。暗闇の中で彼女が照らされる演出がグッド。白でも黒でもない存在を我々はどうするべきか。

9話
フィンチャー回になると画(照明とアングル)の強度が跳ね上がる。今までは顔が暗部で潰れ気味だったが、フィンチャーの手に掛かれば輪郭のみは浮き上がる絶妙なライティングに。物語も佳境で、知的な会話劇がとにかく面白い。「ああ、もう終わっちゃったのか」との飢えを感じてしまう。既に孤立している主人公はより孤立を強める。むしろ孤立したからこそかもしれない。犯罪者と「同じ土台」に立って喋る強行な手口、上司への猛反発。融通の効かない真面目な新メンバーにより、最終回は波乱を抑える事ができない。校長の妻からの抗議。「うるせえ、お前の旦那はペド野郎だ」とおもってしまうが、その感情は偏っていないと言えるのだろうか。起きる前に防ぐのは理想だが、起きる前の存在は犯罪者ではない。世界は矛盾でできている。

10話
逸脱して、調子にのった主人公が辿る顛末。犯人達の思考に同調する様な下劣な言葉とコミュニケーションを駆使した鮮やかな自白への導き。チーププレイ物としての会話劇。だが事態は悪い方へ、悪い方へと。博士は絶望し、相棒は失望し、新顔は馬鹿正直で。俺の何が間違えてるんだ、との思考は始まりの「殺人鬼との対話」でねじ伏せられる。ホラー映画のような恐ろしさ。GOTのクレゲインのような凄惨な暴力を主人公が襲うのではと言う妄想の恐怖。巨漢の足。その足の図太い音。そして抱擁。わかった気でいた、利用している気でいた、コントロールできた気でいた主人公の驕りが恐怖で瓦解する。何て恐ろしいエピソード。フィンチャー監督回はどれもホラー映画のようだ。ある種、初心に帰った主人公。しかし事件は身近で起きているのだ…との絶望のクリフハンガー。構成、脚本。そして役者と演出の勝利。
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