ゴトウ

セックス・エデュケーション シーズン4のゴトウのレビュー・感想・評価

4.0
終わってしまった…。最終シーズンにして舞台が変わり、新キャラクターが投入されたのが嫌だった人もいるみたい。「ここではないどこか」を目指す旅立ちはジュブナイルにはつきもの(そして一番泣けるポイント)だと思っているので、そこまで違和感はなかった。ムーアデール校の変わらない日常でも、セックスやジェンダーロールについての教科書でもなく、少年少女たちの成長譚として完結する道を選んだこと、そして実際きちんと終わらせてくれたことがありがたい。性に対しておそらく最高レベルでラディカルであろうキャベンディッシュの有様は、カオスそのもののようにも見えた。それは無軌道な偽善と片付けることもできるかもしれないけれど、自分にとって、あるいは他人にとっての心地よい場所を作ろう、人として善くあろうとする営みなのであろうということがシーズン1から観てきたファンにはわかってしまう。最終シーズンまで見届けたファンの心象を、まさかルビーが代弁するなんて予想もできなかった。あの時出てきたあの人が再登場、も嬉しいけれど、キャラクターが生きて変わっていくのを実感させてくれたことにまた感涙!

アジア人コミュニティを描いた作品に表れるようなものとはまた違った形で、家族関係のしんどさ、やりきれなさが描かれていたのも印象深い。友人や学校や仕事や恋人…ただでさえ悩みの種は尽きないのに、家族との関係が自分を苦しめる。ラストシーズンは特に、ジーンとメイヴにそうした苦しみが重くのしかかっているように見えた。それだけに、ほとんど最初で最後であろうジーンとメイヴ二人の会話は涙なしには観られない、短いながら作中屈指の名シーンだと思った。ジーンは妹と、メイヴは兄との関係をうまく構築できない似たような境遇にあるのだが、ジーンはあくまでセラピーとしての体裁でメイヴに寄り添う。「褒めて育てられなかった」メイヴの後押しをすることが、結果的に息子のそばから恋人を奪うことになってしまうという皮肉さもやるせない。

セクシャルな面への言及は問答無用で悪とされる一方で、親族の現行は本人とは切り離されず、むしろ積極的なキャンセルの要因になるという描写も生々しい。オーからはついぞ、「あなたを責め立てる理由としてあなたの父親を持ち出してごめんなさい」などという謝罪はなかったし、オーティスもその件に対して激しく怒るということもなかった。これはこれで歪だと思うのだが、自分も含め「有名人のドラ息子」とか「アイドルの家庭環境」とか、日常でごく自然に情報として摂取してしまっているのも事実。ここまで繊細かつラディカルに性を描いているのに、家族ディスは結構OKなラインになっているというのは現実の言論のありようを反映しているのかもしれない。

性の悩みにはやたらに寛容なのに、身体的ハンディキャップに対して無頓着というのもなんだか身につまされるものもあった。そこに「生徒みんなで学校に抗議する」という話になるのは文化の違いを感じた。僕がキャッチできてないだけで、学校と対峙した子どもたちが自分たちの手で快い空間、日々のために戦う話もあるんでしょうけれど、『3年A組』とか『最高の教師』とかだと全部先生に教えてもらって目を覚ます話になるし、若者の側もそれを求めているのかもしれない。金八みたいなのが源流なのかなあ。

エリックの、ゲイとしてのアイデンティティとキリスト教信仰との葛藤は例の如くピンとこない部分もあったけれど、エリックと個人として向き合ってくれた牧師や教会の人たち、勇気を出して教義に疑義を呈したエリック、どちらも勇気ある行動だったのだろう。なにかしらのお導きを受けているような描写は、パーティードラッグきっかけに精神世界に入っていったということなのか?

家庭や、学校や、セラピールームや、止まったエレベーターや、暗室や…クローズドな箱の中での対話を通した心の交流も印象的。一人になりたい時もあるかもしれないけれど、そこで自分とだけ対話していると余計に閉塞して、心は内に篭っていく。自分の部屋も持てなかったメイヴだったが、最後にはトレーラーハウスにたった一人。そこを旅立ち、ムーアデールやトレーラーハウスという憎むべき、しかし楽しい思い出が残る街を出ていくメイヴ。これ全然覚えていなかったのですが、大変素晴らしい記事(https://www.neol.jp/movie-2/97647/)にあたってこれはメイヴが「自分ひとりの部屋」を手にいれる物語でもあったのだな…と納得できた。それは死んだ母と暮らしたトレーラーハウスではなく、大好きなオーティスがいる部屋でもなく、アメリカにもそんな場所は見つけられないかもしれないけれど、心の中にいるオーティスを支えにして歩いていくのでしょう。一方のオーティスもまさしく「ひとりの部屋」で外を眺めたまま物語は終わることになるのだけど、ここでまさかの大ネタ使い。思えばサントラにもたくさん泣かされた。解決できることとできないこと、もう会えない人ともう会いたくない人、どうにもならないままだった話もいくつかあった。寂しくなるけれど最後まで観てきてよかった。
ゴトウ

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