向田邦子は、自立した精神の持ち主同士が織りなす阿吽の呼吸で忖度し合うドラマチックな感情の機微を描いている作家だとおう。

それを真正面から描いたのが本作の『あ・うん』。

本作を私の穿った目で見るならば、歪んだ癖をお持ちの三者三様による歪な三角関係が織りなすドラマとして楽しみました。

仙吉とたみ、そして門倉は、決して自分自身の性癖は明かさずに紳士協定を暗黙理に締結するかのような、あるいは嘘を塗した薄っぺらい飴細工のような関係に私には見えた。

仙吉:
門倉が好きなたみを娶った自尊心と対抗心と寝取られ願望。

たみ:
ヒロインや貞妻への自己陶酔。

門倉:
仙吉からいつでもたみを寝取れる自負心と背徳感。

印象的だったのは、たみが妊娠した際に、もしもそれが娘だったら頂戴と門倉が仙吉に伝えると、仙吉がすぐさま快諾したのには、当時の価値観以外にも二人の歪な感情が潜んでいように感じて憚らない。

• #モノローグ

見たのは1980~81年のNHK版だけどデータがないため、2000年のTBS版に記録。

降旗康男監督、高倉健・富司純子・板東英二が出演した映画版も見ていたけど、やはり正続編併せて全9話の元祖が素晴らしい。
特に向田邦子のファンでもないし、昭和嗜好もないけど、そんじょそこらの最近のドラマや映画にはない、ヒリヒリとした（でも品のある）人間の描写、男女の心の綾、欲と業の深さ…等などをたっぷりと堪能した。

よく考えれば、他愛もない三角関係の話なんだけど、それを戦争が近づく昭和初期の市井の中で、それぞれがデリケートバランスを保ち、かつそれに戯れているという構図に、まあどうしようもない色気がある。関係性のエロティシズム。
そんな人間関係を積み将棋に例えるシーンがあった。「おかしな形はおかしな形なりに均衡がとれて、それが皆にとって一番幸せなんじゃないか」とか何とか。そんな一種アンモラルな台詞を、どこぞのフランス人ではなく、フランキー堺が言うんだよ？(笑)あまりのエロエロしさに頭がくらくらした。

そしてもちろんキャストが皆さん適材適所。超絶美人やハンサムではないけど、うっとり見惚れてしまう。
特に吉村実子さんが最高に綺麗だった。気立てが良くてしっかり者で、うっかり手を出せない清潔感と、うっかり惚れ落ちてしまいそうな魔性とが同居してる不思議な人。

私個人の願望としては、ぜひNHKで再びドラマ化してほしい。キャストは文字通り"あ・うん"の狛犬のような博多華丸大吉のお二人と、富田靖子の『めんたいぴりり』リユニオンでお願いします！

向田邦子新春ドラマとして放送されたやつだな、2000年なら。
キャストは、串田和美、田中裕子、小林薫ほか。
仙吉の父親は、映画の『あ・うん』には登場しない。