真田ピロシキ

カルテットの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

カルテット(2017年製作のドラマ)
5.0
以前に高評価を聞いたことがあって音楽恋愛ドラマだっけ?そんな認識で見始めた。これが大変自分に届いた。

全10話で二転三転を遂げる展開。音楽を生業にして食っていける実力を持ち合わせていないそれでいて趣味で済ませることはできないカルテット ドーナツホールの面々。それぞれが背負っている重い過去や劣等感。マキさんを巡るサスペンス。4人の間の関係性。ともすれば主題が曖昧になりそうな諸要素が重なり音を成す。

最も響いたのは夢を捨てられない社会不適合者の物語である点。3流どころか4流ですらあるアリになれないキリギリス。音楽文化から排出された煙のような存在とまで言われるイタい大人達。だから何だってんだ。世間様が何と言おうが当人達には無駄どころか眩いと信じられて纏わり付いた悪名すら開き直って利用してみせる強さは『リトル・ミス・サンシャイン』に通じるものがある。1人では屈していたであろう現実の壁を乗り越えるのはカルテット内の恋愛関係すら超越した結束。出会いは嘘でも通じた心は本当の尊さ。とかく勝ち負けに五月蝿く生産性ばかり重宝される浮き世においてこうした難しくも気安い生き方を提示した本作を肯定したい。

出演者ではマキマキさんはこれまでで最高の松たか子だと思う。才人なのか凡人なのか。腹黒い悪女なのかマイペースな優しい人なのか。いくつもの顔が浮かんでは消える演技のデパート。実はまともに見るのは初めての満島ひかり演じるすずめちゃん。この子も嘘か本当かの二択では割り切れない人間性を見せる。別府さんが好き。マキさんも好き。かつて処世術としてやってた作り笑いと同じく自分の気持ちを殺しているように見えて本当の思いなのだ。松田龍平演じる別府さんと高橋一生演じる家森さんも複雑。家森さんはうだつの上がらないオッサンの癖して可愛すぎるでしょ。脇役では元地下アイドル役の吉岡里帆。こわいこわい。そして憎めない。「人生チョロかったー!」うん、全く関わりのない他人として見てる分には君の生き方もドラマのテーマに沿ってて好きだよ(笑)毎回ゲストが出てて特に安藤サクラが声だけで出演した時は至福の贅沢を味わえた。

いやー良いドラマ観れました。