モモモ

THE LAST OF USのモモモのレビュー・感想・評価

THE LAST OF US(2023年製作のドラマ)
4.5
1話
1話の時点で、冒頭5分の時点で、傑作なのだと言う確信を得た「ラストオブアス」HBOドラマ版。原作の拡張と補完、そして再現。前提にあるのは「ドラマシリーズ」への構成変換。これは本当に「TVゲームの実写化」の教科書になってしまうのではないだろうか。ゲーム以前を描く「朝から夜までのサラ」の時点で涙腺が緩んだ。そして辿り着く悲劇の「夜の逃走劇」。プレイヤーがいないのだから、これはドラマなのだから、が効いている「原作の省略と改変」が抜群に良い。老婆の異変を「被写界深度」で演出し、菌に侵され豹変する様を「引きの画」で魅せる。「サラの視点」が深まると共に、世界観のルールを開示する見事なシークエンス。ゲームではなく、実写作品でしか出来ない文法と表現。そして時間が飛んで、更なる補完と省略が効いてくる。プレイヤーのチュートリアルなんていらないので、アクションは省略。血と死体があれば、役者がいれば、ラスアスの世界を、空気を、表現出来る。「家族」のみに向くジョエルの利己的で人間臭い人となりと、喪失と年月が植え付けた暴力性を、1話で見事に説明してみせる。何がどう省略され、補完され、拡張されるのか。今後が楽しみで仕方ない完璧な第1話。

2話
すげぇ、ニール・ドラックマンは実写作品も抜群に演出出来てしまうのか…まあラスアス2 のカットシーン を体感していた人は誰も驚かないかもしれないが…とにかく…すげぇ。
冒頭の「感染拡大の始まり」と「感染を止める事はもう出来ない絶望と諦め」を女性博士の表情のみで、1ショットのみで伝える演出手腕に脱帽。菌は繋がっていると言う実写オリジナル要素が活きるの何の。これはゲームの続編、スピンオフにも取り入れて欲しい設定だ。前話から激しいアクションは丸々省略(改変)しているが、それ故に「血生臭さ」と「こんな世界で生きていたくはない」世界描写が拡張されて、見入ってしまう。感染者達の悍ましさ、クリッカーの頑丈さ、そして恐怖。原典を生み出した監督による再抽出。素晴らしい。「娘を救えなかった無念で心が折れている」事が実写だとより痛感できる。エリーの奔放さ(ホテルでの一人芝居)、テスとの別行動に「原作再現」の旨味が詰まっている。エリーが橋を渡る著名なシーンは完全再現し…その上で既プレイの人へのサプライズも忘れない。最高の実写化だ!!!

3話
忖度抜きにオールタイムベスト級の作品となった第3話。今後のエピソードが(あり得ない事だが)全て駄作だったとして、HBO版ラスアスは映像作品として輝き続ける。ゲーム既プレイ済みの人こそ観て欲しい名エピソード。展開を知っている人こそ踊らされ、泣かされる事だろう。ゲームで垣間見たビルの過去を、感情を、為人を、長尺で体験する70分。世界が終わって、初めて世界が始まった男の物語。トランプ以後の、コロナ禍以後の、陰謀論渦巻くアメリカで、この物語を紡いだ意義を考えたい。終末論者の男は、世界がその空想に追いついた結果、被害妄想ではなく現実として破滅を免れる。しかし、男の世界には何もない。ピアノに触れる事を嫌がった、そして広い持ち家に老齢でも住んでいる事から、母との関係は悪くなかったのだろう。だが、それ以外の関係性は築く事すら出来なかったのだろう。同性愛故なのか、男は世界なんて破滅してしまえば良いと願っていた(そしてそれは現実となった)。しかし、人は一人では生きていけない。どれだけ強がっても、それは揺るがない事実なのだろう。男は世界が破滅してからの20年で、正直に、誠実に、ありのままを受け入れてくれるパートナーとの日々で、世界を取り戻す。ビルがあくまで「テロは陰謀で政府はナチ」との偏った思想と思考が揺らぐ事が無かった点が、そしてそんな部分も含めて許容されていた点が、素晴らしい。ゲームではジョエルを通して20時間近いプレイで語られた」愛」と「何を守るのか」を3話で既に説いてしまうとは。彼らにとって「守る」とは何を意味する行為なのか。The Last of Us、のUsを執拗に描く物語。

4話
遂にジョエルが笑った!!エリーとジョエルの歩み寄りの第一歩を描く前進エピソード。4話に来て、やっとです。ジョエルを救う為に撃った銃弾。責任を感じるジョエルと恐怖を感じるエリー。それが初めての銃撃ではないとの告白に、ジョエルはかつての蛮行を告白する。エリーの軽口に、軽口で返すジョエル。そして、くだらない謎掛けで思わず溢れる笑み。原作の脚色があまりにも巧すぎる。兄弟の登場で既プレイ済みの人たちは気が気でないだろうが…。前回、スキップした「ブローターとの闘い」が原作とは違った形で再現されそうな「地面のひび割れ」に、ますます目が離せない!

5話(3/2)
前話の隙間を埋める「兄弟の視点」から物語は始まり、ジョエル達と交わる第5話。今までは抑え気味だった「感染者ジャンル映画としてのアクション」を潤沢な演出、物量で描いた「モンスター(ゾンビ)パニック回」の名エピソード。個人的には3話に次ぐベストエピソードだ。ドラマはこういった構成が可能だから最高だ。弟を探すジョエル、弟を守りたいヘンリー、兄の仇を討ちたいキャスリン。兄弟、兄妹の物語。そうした因縁が「原作再構築」の狙撃戦→感染者大爆発に繋がり、前話で匂わせ、ビルの物語で飛ばした「ブローターの脅威」まで回収してみせる。
ゲームでも「大量の感染者に追われる」パートは怖かったが、本エピソードはそれをキチンと上回る怖さを提供してくれる。数の脅威、クリッカー単体の脅威、そしてブローターの圧倒的戦闘力。キャスリンに対して「成る程、だから皆従う訳だ」と短い登場シーンながら説得力を持たせる人物描写の数々。キャスリンのヘンリーに対する問いは、本シリーズ(ラスアス1作目)の結末を暗示するもの(世界より大切なのか?)で、エリーの短い友情の結末(私は治療薬)は次シリーズ(ラスアス2 )のエリーの心情を補完する物で、とにかくとんでもない「ラスアスのドラマ化」である事は疑いようがない。「善悪の存在しない」世界観の説得力、多様な人物達、ジョエルの中に芽生えるエリーへの愛情、これこそラストオブアスだ。

6話(3/5)
事実上のラスアス2 実写パート。ジャクソンの街並みとトミーの改変(及びマリアの掘り下げ)、そして流れるラスアス2 サントラアレンジ、兄弟の再会で思わず涙が込み上げるジョエル、そんなジョエルに一抹の悲しさ(嫉妬や疎外感の方が相応しいだろうか)を抱くエリー。原作を忠実に再現しながらも、ジョエルのパニック障害的描写の追加で、より切実な思いを抱けるエピソードになっている。ジョエルは「愛している」と言葉にこそしないが、胸を貫く恐怖が、愛を何よりも示す事になる。失望させる恐怖、失う恐怖。確かにジョエルは父ではないし、エリーも娘の代わりではない。しかし、もう既にジョエルは愛を取り戻してしまっているのだ。だからこそ恐ろしく、身動きが取れなくなる。原作以上に偏屈で心を開かないジョエルが、シアトルへの僅かな旅でエリーと遂に心を通わせる。終盤でジョエルのスニーキング首絞めを中旬に再現しながらも病院での大立ち回りを簡略化。しかし辿るべき道は同じ。次のエピソードはいよいよ…食人のあいつか…。

7話(3/5)
原作DLCの忠実な実写化。ここまで忠実なのに、より胸を打つ恋愛ドラマになっているのは「生身の役者」故の強度なのだろうか。PART2基準のリメイク版であるPART1ならば「役者の情報量」と言う点では実写と大差ないのかもしれないが。
前話では「ジョエルにとってのエリー」を、今話では「エリーにとってのジョエル」の価値と意味を描く。
廃ショッピングモールの実在感にHBOクオリティを存分に感じる事が出来る。
3話と同じ、滅んだ世界での純な愛情物語。
「皮肉屋で勝気で賢しいクソ餓鬼」と言うエリーの全てが詰まった名エピソード。
エリーの「Don’t go. 」に名優誕生の瞬間を見た。

8話
原作でも最悪だった「人食コミュニティ」エピソードを、より厭に、不愉快に。トロイ・ベイカーの配役で厭を加速させ。共闘したキャラクターが…と言うゲームならではの表現には勝てないが、物語としてキチンと「暴力性故の共感」を描いてみせる。50分にまとめなければいけない劇中経過時間のせいか「ジョエルの回復スピード早いな!?」とも思ったが、ゲームよりは軽症で、刺しどころも悪くなかったと思えば許容範囲だろうか。
カルト側の描写のお陰で「ああ、このコミュニティは家父長を煮詰めた居場所なんだ」と理解が広がり、貪り尽くような食事シーンには背筋が凍る。エリーに対してハッキリとレイプを試みようとしる描写のせいでアンチカタルシスは更に強まる。最終回前にジョエルとエリーの関係性を可能な限り高めて…と。

9話
タイトな尺で描く待望のシーズンフィナーレ。寡黙なエリーと饒舌なジョエル。反転した2人の「共依存」的愛情の行末はPART2に繋がる因果と過ち。「お前が決める事ではない」と拒絶するジョエルに「それはお前もだろう」と返すマーリーン。ジョエルの最大の過ちである「エリーの意志を確認しなかった」点を先回りして抉ってしまう。原作ゲーム以上に偏屈で心を閉ざし、老いて、強靭ではない男として描かれたドラマ版は更に踏み込む。あの喪失で時が止まったジョエルは自死を試みていた。「何故か」逸れてしまった事で、ジョエルはエリーと出逢い、エリーは救われ(現時点では)、ジョエルも救われた。時ではなく人が人を癒す。「あの時死んでおかなくてよかった」と思えたジョエルと「あの時死んでおけばよかった」と自分を責める事になるエリーの対比が切ない。喪失で心を病んだジョエルと同じように、この旅の中で失った多くの命がエリーの心を蝕む。ジョエルがついた嘘はより狡猾に。殺しては銃を奪い…という「TVゲーム的演出」で虐殺を描き、全ては整った。来るべきPART2が恐ろしく、そして待ちきれない。原作再現というよりは、あの脚本の映像化において、この演出こそが最適解なんだろうな…と思える一連のラストシークエンスが素晴らしかったです。
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