ローズマリー

母性のローズマリーのネタバレレビュー・内容・結末

母性(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

594本目。
2022 399
よなよな書房と映画感想レビュー&考察サイトから下部引用。自分の思い出す手がかりに繋がるためだけに使用。





とある新聞記事。市内の県立高校に通う十七歳の女子生徒が四階にある自宅から転落して県営住宅の中庭で倒れているところを母親が発見。警察は事故と自殺の両方で原因を詳しく調べているとのこと。母親は『愛能う限り大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて信じられません』と言葉を詰まらせる。今朝見たこの記事がひっかかる女性教師は母性について考え始める。すると同僚の国語教師の前任校が今朝の新聞に載っていた女子高生と同じ学校だったことが判明し二人は仕事終わりに飲みながら事件について話すことに。向かった店は女性教師の行きつけだという『りっちゃん』というたこ焼きが売りの飲み屋。おたふくソースが似合いそうな女店主に出迎えられ二人は事件について考える。後になって判明しますが女性教師がこの事件を気にする理由は妊娠中で母性に関係するこの事件に興味を持ったから。しかしこの二人のやりとりはわずかであり物語のほとんどは母親の手記と娘の回想で構成されており読者はこの二人の心情から事件を考えていくというスタイルに。ところがここには大きな仕掛けがあり後に後述する。
母親の名前は終盤まで出てこないが書く都合上ルミ子と先に出す。ルミ子は二十四歳の時当時通っていた絵画教室で知り合った田所哲史と結婚。ルミ子からしたら田所の絵は辛気臭いものだったが世界で一番愛する母親に見てもらったところ母親はその絵を絶賛しそれからルミ子の田所の絵の見方が変わる。ルミ子はその絵を譲ってもらおうと田所に会い母親の田所の絵に対する感想を少しアレンジして伝えたところ田所もルミ子に興味を持ち二人はデートに行くことに。そして三度目のデートでプロポーズされる。ルミ子は即答せず一度自分の母親に会ってそれから決めたいと答えを保留する。唯一同じ絵画教室に通い田所の同級生でもある仁美からは結婚を反対されるがルミ子は気にも留めない。そして田所はルミ子の母親に気に入られまたルミ子に対して『美しい家を築きたい』と語りルミ子は結婚を決意した。
二人の新居は田所の両親が中古の一戸建てを用意してくれルミ子は仕事を辞め田所を支えることに専念する。とはいえ田所を送り出した後実家に帰って母親に会うことも頻繁にあったが母親はそれを咎めない。結婚してから半年後ルミ子の妊娠が発覚し無事に娘が生まれた。娘の名前は田所の義母が決めることになりこの名前も終盤まで明かされないが清佳と先に出す。ルミ子は母親から受けた愛情をそのまま清佳に与えようと出来る限りの努力をする。その甲斐あって清佳は人が望むことをしてあげられる子に成長し母親もルミ子を褒める。しかしそんな幸せな生活にある悲劇が襲い掛かる。
清佳があと半年で小学校に入学するという頃。田所は仕事で月の三分の一は夜勤に出なければならず不安なルミ子は田所がいない日だけ母親に来てもらうことにした。そんなある日台風が訪れ激しい雨風が家を襲い夜の八時過ぎに停電が発生。ルミ子は台所と居間にろうそくを立て灯りをともす。それ以上のことは起きなかったため一家は就寝するがルミ子はそこで雨音が尋常じゃないことに気が付きそれから遠くから何十台の車のクラクションが一斉に鳴っていることに気が付く。この時点でルミ子が知るはずもないが川が氾濫し町中の車が浸水していた。家全体が揺れる中清佳が呼ぶ声がして向かうとそこにはタンスに押しつぶされた母親と清佳の姿だった。ルミ子は助けを呼びに行こうとするがなんとろうそくの火が原因で居間が燃えていた。限られた時間の中ルミ子は母親を助けようとするが母親は清佳を助けるよう懇願。しかしルミ子は母親である前に娘であるという気持ちが一番だった。その後母親の必死の説得がありルミ子の記憶は曖昧だがおそらく清佳を助け出して外に出たのではないかと思われる。この事故に関して清佳の回想でも母親(祖母)の存在の大きさが語られ無償の愛をくれた唯一の人と言っている。つまりルミ子の愛情とは母親に褒めてもらうための感情であり娘の清佳には届いていなかった。こうして幸せな日々は終わってしまう。
家は全焼し三人は田所家に移り住むことに。この義母は明らかに迷惑そうだがそれでもルミ子は必死に頼み込んで住まわせてもらう。ルミ子は義母に逆らうことができずどんなに体調が悪かろうが家事に畑仕事とあらゆる作業をこなす。それでも一切の給料はもらえず哲史の給料だけでなんとか生活していくだけで必死だった。そんな状況の中田所家の次女律子が家に戻ってくるが律子はすぐに仕事を辞めかつ頻繁に遊びに出掛けていくように。しかも明らかに金目的であろうと黒岩克利という男に貢いでいた。律子は一度黒岩を家に連れてきて家族と話し合うが家族の二人への不信感は高まり黒岩は追い返され律子はショックで部屋に閉じこもってしまう。また律子が勝手に出て行かないように誰かしらが監視しておくことになった。そんなある日清佳が律子を見張る日があったが律子に買い物を頼まれた清佳が目を離した隙に律子はいなくなってしまった。これについては清佳の回想で律子と口裏を合わせた行動だったが律子は約束を破って帰ってこない。その後律子がたこ焼きを売っているところを哲史が発見するが死んだ者として扱ってほしいと以後律子との交流は断たれる。冒頭に出てきた『りっちゃん』の店主とは律子。律子がいなくなった後義母は意気消沈してしまうが問題はこれだけではない。どれだけ願ってもルミ子は二人目を妊娠することがなかったにも関わらず母親が亡くなってから六年後妊娠が発覚するのだ。これに対し義母、長女の憲子がルミ子を責める。憲子は結婚して家を出ていたが半年前から毎日のように田所家に通うようになった。理由は息子の英紀の気性が荒く手が付けられなかったから。義母も最初は娘と孫の来訪を喜んだがすぐに英紀の相手を仕切れなくなりいつもルミ子が相手をさせられる。あと一週間ほどで安定期に入るという頃合いで軽い出血があり医者からは絶対安静を言い渡されるルミ子。さすがの義母もそれを許しルミ子は離れで休んでいたがそれでも構わず憲子は英紀を連れてくる。清佳はそれに怒り二人に怒鳴るがルミ子はその汚い言葉に絶望し怒るよりも先に英紀と散歩に行ってしまう。しかし道中清佳からお腹に赤ちゃんがいることを知らされていた英紀は感情が昂りルミ子を突き飛ばして先に帰ってしまう。それがきっかけでルミ子は流産。それ以来憲子と英紀が来ることはなくなった。
『桜』と名前まで決めていた子供を失い心が空っぽになってしまったルミ子だが婦人会で知り合い英紀に突き飛ばされたルミ子を見て救急車を呼んでくれた敏子が彼女を救う。清佳が中学に上がるとルミ子は手芸教室に通い始めます。一年後敏子は占いができるという姉の彰子を連れてきて名前からそれぞれの性格などを言い当てる。過去の事件のことを言い当てた彰子にルミ子は現状を包み隠さず話す。すると清佳にオルグと呼ばれる悪い気がまとわりついていると言われそれを直すためにルミ子は高価な薬を購入し清佳に飲ませた。その甲斐あってか清佳の成績は上がり委員会に立候補するようになった。しかし義母に薬のことがバレてしまいルミ子は敏子たちと関係を断たざるをえなくなる。一方この薬は清佳にとって迷惑そのものでもっと服を買ってもらったり普通の愛情を欲していた。母親に認めてもらえない自分が嫌いな清佳は必死でルミ子の気持ちに応えようと努力する。ところがそれでも悲劇はさらに母娘を襲う。
高校生になった清佳は父の日記を見つけ父親がどんな人生を送ってきたのかを知る。そんなある日彼氏の中谷亨と会っている時哲史の姿を見つけ亨を置いて清佳は哲史の後を追う。着いたのは祖母が住んでいた今は仁美に貸している家。中から聞こえてくる二人の声から哲史が不倫していることは明らかだった。清佳はたまらず中に入り二人を怒鳴りつける。哲史と仁美は学生時代学生運動を共にしその頃の気持ちを引きずっていた。清佳は思いの丈をぶつけるが仁美から思わぬ反撃を食らう。哲史が仁美と会っている理由それは清佳とルミ子を見てられないから家に帰りたくないのだと言う。清佳はルミ子に好かれようと必死だけれどルミ子は清佳を避けている。それを見るのが哲史は辛かった。そして話はなぜか祖母が死んだあの日のことに。実は祖母は焼け死んだのではなく舌を噛み切って自殺した。ルミ子に清佳を選択させるために自分で命を絶った。そしてルミ子は母親が自分ではなく清佳を選んだことが許せなかったのではないかと憶測を並べるがその途中で清佳はワインボトルで仁美を殴打し家から飛び出す。そして帰宅後ルミ子にこのことを伝えるとルミ子に首を絞められて殺されかける。しかしそれではルミ子に罪を背負わせてしまうと考えた清佳は彼女を突き飛ばし自ら首を吊って命を断とうとするのだった。
清佳は首吊りだったが冒頭の事件では飛び降りで内容が異なっておりここでようやく度々登場した母の手記と娘の回想が冒頭の事件と関係ないことが判明する。それもそのはず事件に興味を持った女性教師こそ清佳なのだから。自殺未遂を起こし意識不明の状態へと陥った清佳。教会の懺悔室で「大切な母が命をかけて守ったその命が輝きを取り戻し美しく咲き誇りますように」と祈り「私が間違っていました」と口にするルミ子。無事回復してから時が経ち学校の教師となり同級生であった亨と結婚した清佳。そして映画終盤にてついに彼女から「妊娠した」と電話で聞かされた時ルミ子は祝福の言葉を贈る。「怖がらなくていいのよ」「私たちの命を未来に繋いでくれてありがとう」字面だけを見れば子を授かった娘に贈った母の言葉そのものだが前者はルミ子が妊娠したと聞いて実母が贈ってくれた言葉、後者はかつての火事の最中で幼い清佳を助けようとしないルミ子に対し告げた言葉というルミ子が「その言葉は娘を裏切らない」と信じる実母からもらった言葉の引用であるのも事実。無論それでも「実母が自分にくれた言葉をようやく娘である清佳に譲ることができたんだ」と捉えることもできなくはない。しかしながら映画終盤に至るまで描かれ続けてきたルミ子の「娘」っぷりを見せつけられてきた人間の心の内には「祝福の言葉を贈ったルミ子が笑顔だったのは、清佳が“母”となること自体を喜んでいたわけではなく清佳が“母”となることによって“娘”ではなくなるという事実に対して喜んでいたのでは?」という想像がたやすくできるはず。清佳の首吊り後仁美は死んではおらず哲史と一緒に逃げ出した。哲史はルミ子の母親の自殺する現場を目撃しておりさらに実はその前に絵を持ち出していた。もし絵を諦めていれば母親も一緒に助けることができたかもしれない。そう思った哲史は罪悪感からルミ子清佳から目をそらしていた。その後仁美から別れを告げられた哲史は戻ってきてルミ子はそれを許した。これらの事件を通して清佳は自分が母に望んでいたことを生まれてくる子供にしてあげたいと考えていた。自分の全てを捧げる。しかし『愛能う限り』とは決して口にしない。そして清佳は母娘についてこう考える。愛を求めようとするのが娘であり自分が求めたものを我が子に捧げたいと思う気持ちが母性なのだと。
ローズマリー

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