こうん

探偵マーロウのこうんのレビュー・感想・評価

探偵マーロウ(2022年製作の映画)
4.0
リーアム・ニーソンがフィリップ・マーロウ役?オジイやんけ!20年遅い!
と思いましたけど、チャンドラー没後に書かれたマーロウものの公式続編の映画化で、わりと老年の設定らしいので、ぜんぜんニーソン適役な感じだそうです。
じゃ、観るかってんで観てきました。
リーアム・ニーソンが念願のフィリップ・マーロウ役を演じることがウリの映画で、それ以下でもそれ以上でもない、フツーの映画でしたよ。
でもちゃんとハードボイルド映画になっているとは思いました。
わたしの思うハードボイルドの条件とは、
・人間の営みとしての“街”の貌が描かれている
・主要な女性キャラクターがファム・ファタルである
・主人公はタフで友情に厚く権力が嫌い
・だけどそこまでケンカは強くなくてよくボコられる(失神多し)、でも打たれ強い
・人間の暗い欲望に基づいた謎が謎を呼ぶ展開
・あんまりすっきりしない清濁併せ飲みラスト
…といった感じですかね。
チャンドラーの世界は1930年のLAで、本作では特にハリウッドの裏側が描かれるので、差別され支配され利用される女性が多いのですけど、そんな中でも強かでマーロウも狼狽えるようなタフな女性が“宿命の女”として登場し、むしろ影の主人公として彼女たちの魂が(少しだけ)救済される、というような展開になるのも、わりかし重要なポイントではないかと思います。
あくまでマーロウは血の通った狂言回しであるという立ち位置で。空虚な中心として、さまざまな事象や思惑を繋いでいく役目ですね。
そういう意味でも本作はちゃんとハードボイルドでしたし、ニーソンのマーロウはダンディでちょっとだけ甘いジェントルさや反骨精神があり、もちろんちゃんと強いし(歴代マーロウの中で一番強く見える)、なにより人情家で社会通念としての道徳を優先させないところが「いいね!」という感じです。
あと思いがけずバディ物の要素もあって、後半でマーロウの相棒となるセドリックの聡明で機知に富んだキャラクターが豪快にトミーガンぶっ放してくれるので、ここは100点でしたね、アガるぅ~。
フィリップ・マーロウものでありながら、リーアム・ニーソン映画でもあるので最低限のニーソンを愛でるエンターテイメントとしての面白さもちゃんとあって、そこは好感持てましたかね。この映画企画に必要なことしかやっていない、という感じ。
マーロウってもうちょっと屈折しているというか、陰がある感じなんだけど、ニーソンのマーロウはわりかしストレートで陰も明るめの陰という感じで、親しみやすいマーロウなんではないでしょうか。頼れるお父さん的にモテてるし。
そうそう、久しぶりに観たジェシカ・ラングが(多分モデルのひとりとなっている)グロリア・スワンソンみたいな凄味を秘めた大女優役でよかったし、その娘であるダイアン・クルーガーの徒な感じだけど現代的なリアリストの側面もあって良かったね。ちょっとキルスティン・ダンストに似ている瞬間があったです。
あとニール・ジョーダンは「クライング・ゲーム」と「インタビュー・ウィズ・バンパイア」しか観てないけど、淫靡で耽美で流麗な画作りがこのハードボイルドな映画世界に合っていたんではないでしょうか。あとちょっとクィアな雰囲気も時々あってそこもハリウッド暗部に踏み込む映画として奥行きをもたらしていた気がします。
ただまぁ、ミステリーとしてなにか、ドロッとしたものに欠けるというか、人間関係やその思惑や欲望がありきたりだし業が深くなくて、あっさりしていたので、そこが淡白に過ぎる気がしますし、その業の深さがあってこそ“宿命の女”の重要度も高まり、彼女のカタルシスにつながるというもんで、そこが明らかに描き足りないのではないでしょうかね。
悪い癖だと思うけど、この手の映画はいつも傑作「チャイナタウン」(監督はアウトな人ですけど…)と比べてしまうので、なんかな…という気持ちですみませんけど!
ま、70歳のリーアム・ニーソンがダンデーだったので良かったです。頑張って健やかに仕事続けていただければ幸いです。

それにしてもシャンテでこんなに前期後期高齢者に囲まれて観たのは久しぶりでした。
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