こうん

ミッション:インポッシブル ローグ・ネイションのこうんのレビュー・感想・評価

4.5
ただでさえ酷暑で頭がおかしくなっているうえに刻々と公開日が近づいているのでわたしのミッションはインポッシブルして爆発しそう。
新作「デッドレコニング PART ONE」に備えてM:Iマラソンしたので、ざっくり今のところのベスト3を開陳してクールダウンしようと思います。
ざっくり、といっても長くなってしまいそうですが。
 
「M:I:Ⅲ」に比肩する同率1位は、これだ!じゃじゃん!
シリーズ最高傑作の誉れ高い第5作「ローグ・ネイション」!
わーい。
5作目にして「スパイ大作戦」度がガン上がりで、あのチーム全員でドヤるラストは最高っす。あそこで毎回わたしはジョジョ~となにかを漏らしています。冒頭のレコード店の最高の意趣返しでザマァ!ですよね。
チームスパイものでありトム・クルーズ映画でもある、娯楽映画としてのバランスが一番いいのが「ローグ・ネイション」じゃないですかね。シンプルにクオリティが高いです。
 
「ワルキューレ」で仕事してからトムと夫唱婦随的に共闘しているクリストファー・マッカリーさんが本作の監督で、このあとの「フォールアウト」も「デッドレコニング」前後編(ケンカ別れしないでね)もマッカリー監督で、このシリーズ後半戦はほとんどクルーズ=マッカリー作品と言ってもいいかもしれません。
主演プロデューサーと監督という関係性以上に、この2人はなんかウマが合うんでしょうね。シリーズ終わっちゃったぽいけど「アウトロー」なんかは、映画の面白さの狙いどころがマニアックというか渋好みの感じがして、いっときは「M:I」シリーズと両輪でやってくれねぇかな、と思っていましたけど、クルーズ=マッカリーは「こういう映画作りたいよね、いや作るべ!」という部分で一緒にキャッキャウフフしてそうで、その関係性は今もって心強いです。
あとメイキング映像で垣間見れる、無茶するトムを心底心配するマッカリーさんが荒くれマグロ漁船員の夫を陸で待つ妻のようで、いつもなんか切ないです。
(マッカリーさんのグラサンの向こうはいつも涙目だと思う)
 
マッカリー監督お得意のカーチェイスシーンはいつも映画の白眉のうちのひとつで、ドッタンバッタン車で暴れ倒すというカーアクションの中で運転手は必死なんだけど助手席ではやることなく耐えるだけ、というのがなんともいえんユーモアを醸し出していて、それは「アウトロー」でもやっているんですけど、緊張と緩和が同時にある不思議なシークエンスになっていると思います。
本作では溺れた直後のぼんやりイーサンと助手席の困惑ベンジーのカーアクションがスリルと笑いを同時に提供してくれています。
 
そして本作でもつかみのアクションが炸裂!いきなり体を張るトム!離陸する輸送機にしがみつき!アホか!
本作のアバンタイトルのシークエンスは、キャラクターの紹介とアクションとユーモアと、トムの「これがわたしです」的な自己紹介スタントがかなりスマートに描かれていて、イーサンが飛び出してくるタイミングなんか、花道に片岡仁左衛門が走り込んできたかの如く「よ!待ってました!」の世界です。
 
でなにより面白いと思うのは、IMFが無用の長物として解体される危機にありながら、ダークサイドのIMFのような“シンジケート”という組織が出現し、そのどちらにも属さない諜報員として出会うイーサンとイルサの関係性が本作の骨子のひとつとなっているところですかね。
実感としては伝わりにくいけど、彼らのアイデンティティが諜報員という職業意識と深く結びついており、“誰かを助ける=世界を救う”という究極的な目的のみがイーサンとイルサの共通するヨスガであり葛藤である、ということを描いていて、もはや職業ものとしての(こんなスパイ現実世界にはいないのに)スパイ映画になっている気がします。
ちょっとだけル・カレのスパイ小説要素が入ってきているというか。

その同じ使命感を背負った、そしてその使命に翻弄されるイーサンとイルサの共感と尊敬と思慕が通底する基調音として流れる人間ドラマにもなっていて、そこが…なんか美しいとすら思っています。
そこに男女の情愛みたいな情感が流れていないし、そういう風にしないのもいいなぁと思います。このイーサンとイルサの関係性は続編「フォールアウト」でも描かれ、そこでは「あれちょっとイルサさん、イーサンに♡なんじゃないの」という描写もちょっとありますが、相変わらず“誰かを助ける=世界を救う”ことに一所懸命な諜報員ドラマとなっています。

この二人を中心に、IMFの少数精鋭(他にメンバーおらんの?マギーQとか)が集い、諜報員としての使命を共有しながら、本作のヴィランであるsushi大好きソロモン・レーンを追い詰めていって、最後にはドヤァとなるのが何度見てもゾクゾクします。
言ってないけど「シンジケート?ふざけんな、だったらおれたちはIMFだ」という台詞が聞こえる気がしますですよ。
レーンがめっちゃ悔しそうでいいですよね。

そのソロモン・レーンが演じるショーン・ハリスさんの声と顔立ちと顔の小ささ(大きめのおにぎりくらい)でもって、やけに酷薄で冷徹で頭脳明晰な感じがしてナイスヴィランと思いますけど、俳優としての格はやっぱしフィリップ・シーモア・ホフマンに軍配が上がりますな。
 
あと本作から登場のイルサことレベッカ・ファーガソンさんね。超演技上手いし、近接格闘技もイケるし、そしてなにより美しい…美しい…イルサがプールからあがってくるところは「カジノロワイヤル」で海から現れるダニエル・クレイグを観た時と同じ顔で観てました。
願わくば死ぬ前にイルサさんに飛びつき三角絞めでダウンされたい…!

そしてトムにいたっては、本作と「フォールアウト」において単なるアクションジャンキーの向こう側に行っていると思いました。
もう見世物としてのアクション=スタントではなくて、「この映画を信じてくれ」とトム・クルーズがその存在を担保に差し出しているというか。そういう凄みを感じていますよ。
(万が一トムが撮影中に死んだ時、スタッフキャストのギャラが保証される特殊な保険とか組んでいるんじゃなかろうか)
映画の中の“誰かを助ける=世界を救う”ことが、身体を張って映画を作っている、という事実と直列で結び付いていて、ひいてはそれが今では“世界を救う=映画を救う”ことにもなっており、なんちゅうかもう、毎回ソチ五輪の浅田真央のフリー演技を見ている気分。
トムの必死の貌が演技ではなく、世界を救う/映画を救うという覚悟そのものということですよ。
もはや、そういうエンターテインメントなんだ、「ミッション・インポッシブル」は。

ま、とにかく。
「デッドレコニング」が超楽しみ。
と同時に、これ書いてる時点ではアメリカ映画界で脚本家と俳優の組合のストライキが同時に起こっており完全に映画が止まっている状態。
これがまた映画にとって映画館にとって、良くない事態になりかねないという懸念もあり、おれは粛々とお金を払って映画館で映画に向き合い楽しむだけしかできないけど、しっかりと目撃しようと思います。

ということで「ローグ・ネイション」が同率1位ですけど、トムに聞いたら黒澤明のように「次回作が最高傑作だよ」と答えるに決まっているので、心して観てきます。
いや、翔んできます。翔べ!

チャラーン♪
こうん

こうん