こうん

ビデオドローム 4K ディレクターズカット版のこうんのレビュー・感想・評価

4.1
過去の感想で“クローネンバーグが…”という記述があったりしましたけれど、白状します、知ったかでしたー!
…リアルタイムで観た「クラッシュ」以降にぽつぽつと6,7本くらい観てはいるんですけど、前のめりで興味を持つほどでもなく、代表作である「ザ・フライ」「裸のランチ」も観てないし、なにかで読んだ“クローネンバーグ論”をふんわりインプットしているだけなので、知ったかぶりも甚だしいです。
でもヴィゴ・モーテンセンと組んだ「ヒストリー・オブ・バイオレンス」と「イースタン・プロミス」は好きなので、withヴィゴの新作も楽しみにしています…でもその前に好機!
初期カルト作っぽい「ヴィデオドローム」が4Kのディレクターズカット版で上映しているので襟を正して観てきましたよ。

ほわ~クローネンバーグみが濃い~。
「スキャナーズ」は鑑賞済みでしたが、クローネンバーグの80年代のキャリア前半の作家性の剥き出しの感じに面喰いましたね。多分これがクローネンバーグの本質というか、頭の中の具現化に近いのではないか…と思いました。

ぶっちゃけ理屈でこの映画を理解できてませんけど、よく言われる“ボディ・ホラー”という独特の(ジャンル映画方向の)作風の向こうに、もっと悪夢的な人間の実存と恐怖みたいなものがあって、精神=肉体=物質の関係性への恐怖と好奇心が表裏一体になっているであろうクローネンバーグの人となりがわかった気がしましたね。
本作には増殖しまくる癌細胞の特殊効果がありましたけど、その癌細胞に畏敬の念すら抱いているのではないか。そのあたり、ちょっとだけ理解は出来るけど、基本的には“変態”のフィールドで思考する人だと思います。
この「ヴィデオドローム」がのちのち「クラッシュ」や「イグジステンス」に繋がっていくのだなと腑にも落ちましたね。
今まであんまりクローネンバーグに興味持てなかったのですけど、この「ヴィデオドローム」観てようやくスイッチが入ったような、真の理解の入口に立てたような気がしています今。
そしてその作家性が広く長く敷衍していること、またクローネンバーグ・フォロワーともいうべき若い映画作家たち(息子含む)もちらほらいることをみれば、精神と肉体と物質(機械)がまたさらに接近している昨今、その潜在的な恐怖というのがより感覚として受け入れやすくなっているのかもしれません。

そういうクローネンバーグのアート方向のビジュアルや得意な物語作家としての特徴とは別に、本作は娯楽映画(ホラーノワール?)としてもパラノイアックで訳わからないなりに面白くって、特にバイオレンス描写においては秀でたものがあり、これも後々のキャリアで洗練された形でみることが出来る要素ではないでしょうかね。フツーに映画監督として巧みだし、そのあたり、70年代からの長いキャリアの中でコンスタントに仕事が続いている理由なんではないかと思います。
あとクローネンバーグさん、いかつい貌、とくに双眸の鋭い感じの人が好きだよね。彫が深くてギョロッとした眼の人。本作のジェームズ・ウッズとかピーター・ウェラーとかジェレミー・アイアンズとかヴィゴ・モーテンセンとか。どちらかというとクローネンバーグも彫り深ギョロ眼なので、もしかすると主人公男性に自身を反映しているのかも…とか思いました。
そうそう、知らなかったけどブロンディのボーカルの人(デボラ・ハリーさん)が俳優仕事しているの知らなかったので、本作での役どころも含め、なんか…よかったです…よかったです…。

もうじきやってくる新作「クライムズ・オブ・ザ・フュ―チャー」も予告編観ただけで「やっべぇ頭おかしい…(微笑)」となるようなかなりクレイジーな感じで最突端のクローネンバーグが観られそうで楽しみです。と同時に知らない世界に連れていかれそうで怖い。
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