こうん

658km、陽子の旅のこうんのレビュー・感想・評価

658km、陽子の旅(2023年製作の映画)
4.1
超久しぶりにマスコミ披露試写会というのに参加して(当たりました)、上映前のトークがそのあとの上映後にはもうネット記事になっていて、帰りの電車で「はやっ」と声に出してしまいました。
この時代の速度感にはもう慣れることはなさそうですが、金なしスマホなしコミュ力なしの陽子の旅は人間的な、あまりにも人間的なスピードで展開されるので安心です!

熊切和嘉監督最新作で、PFFスカラシップ作品だった「空の穴」で準主役を務めた菊地凛子さん(当時は菊地百合子)と超久々のタッグ。

この間の20年以上の歳月が、おふたりの人生の変遷や映画人としてのキャリア、それらが熟成されて本作に結実したと思うとなんとも感慨深いし、とくにほぼ同年の役柄に扮した菊地さんの俳優としての充実ぶりが、陽子の物語としてそこに横たわっている42歳の女性の人生の重たさ(もしくは軽さ)そのものの手触りで実感できて、それが素晴らしかったですね。
物語が進む/北に向かう/故郷に近づくのにつれて、菊地さん演じる陽子(この世代に多い名前だ)の表情に柔らかさや色彩が宿っていく様には、“人が生き直す”ことの温もりが宿っていましたよ。

本作は関東から陽子の故郷である青森は弘前に向かうロードムービーなのですが、その冬の景色が土地土地で移り変わっていくのが日本ならではですし、3.11から10年後の東北の人々の心との“袖触れ合うも多生の縁”のドラマでもあり、その多生の縁が陽子の内面にもたらすポジティブな変化というのが本作の骨子でもあります。

ちょっとした人生のボタンの掛け違いで、あんまり日の当たらないところで生きている陽子を、これまたパッとしない風景の中に置く熊切監督の眼差しがクールでありつつ誠実で、
それを丁寧に重ねていく筆致は「海炭市叙景」の熊切監督の手つきそのものだなと思いましたね。

まだ公開前なのであんまし深掘りしませんが、ひとつリクエストということで言っておくと、フットワークが軽いとは言えない陽子の旅はけっこう鈍重とも受け取られかねない感じなので、タイトルに658㎞ともあるので、随所随所で「○×km」というタイトルが入ると、アクセントにもなるし、ちょっとしたユーモアになるんではないかと思ったりしました!

舞台挨拶にあがったオレンジのセットアップの装いの風吹ジュンさんが素敵で、花かと思いました。あとオダギリジョーはカッケーな!
という感じでミーハー気分でした…
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