こうん

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEのこうんのレビュー・感想・評価

4.5
トムが来日できなかったジャパンプレミア上映で観てきました「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」。
 
 
 
【以下、ネタバレしてっかんね!】
 
 
 
これでシリーズ最後とされている2部作の前半163分という時間の密度に、なるほどイーサン・ハントのキャラクタードラマをじっくり描いていくのだという気迫と覚悟を感じましたよね。
そんな娯楽映画として、またしても重量級のドスンとした当たりを喰らいましたぜ。
 
だがしかし。
わたしは今、(予告編からなんとなしに予感はしていたものの)イルサさんの死にうちひしがれています…
そのへんは正直文句があるのだが、そこは長くなるし作劇のビミョーな匙加減の問題なので涙を拭いてうっちゃっておきますが、うう…つらい…
 
それはともかく、今まで以上にイーサン・ハント=トム・クルーズのシンクロぶりが顕著になってきましたね!

危険度の高いアクションやスタントをダブルを使わずに本人がやっているという(もはや)常識も含め、映画の中と外のズレが以前よりも小さくなっている気がします。
イーサンの言っていることやっていることはもちろんキャラクターの行動原理や存在理由も、トムのそれとほぼ一緒じゃないですか。
殊にコロナ禍を経てのハリウッドの中のトム・クルーズはそのクリエイティブポリシーとともに存在感を増しているし、スピルバーグが“マーヴェリック”である彼に感謝を述べるほどに、息も絶え絶えの映画産業と映画館興行の、名実ともに救世主でありまたそうあらんとしている姿が、映画の中で世界と仲間を全部救おうとしているイーサン・ハントそのものだ、という感触がますます強くなってきました。
 
かつてジャッキー・チェンが体現してきた“観客に面白がってもらえることを信じて身体を張った映画作り”というクリエイティビティが、今やロートル映画スターのトムが受け継ぎ、大事に育ててきたビッグバジェットシリーズである「M:I」シリーズをそのクリエイティビティで作っている、そしてそれが文字通りの孤軍奮闘であるかもしれないことが、心に迫ってきて、落涙を抑えられないところがあります。
純然たる娯楽映画を観ているんだけど同時にドキュメンタリーを観ているような、そんな感じです。
結果はどうであれ、トムが本気でハリウッドを背負っている気概で映画を作っていることは、あの流出した音声(コロナ対策を怠ったスタッフにトムが怒髪天を衝いた件)を聴いた人には理解できることだと思います。
ましてやそうして出来た映画が、この仕上がりなんだから!
泣かずにおれるか!
 
またさらに驚くべきシンクロニシティを呼び込んでいるのは、今まさにアメリカ映画産業において、脚本家組合に次いで俳優組合がストライキに突入していて、その争点のひとつであるのが人工知能による脚本製作や演技生成ですよ。
つまりは映画製作にAIが本格的に活用されると職や収入を失う人が増えてくると。
他にもいろいろ問題点はあるし、AIについては昨日今日問題とされ始めたわけではないですけど、人工知能の脅威というのが映画産業の根幹を揺るがそうとしているわけで。
そして本作のヴィランが、なんと人工知能。
マクガフィンとかではなく、姿かたちはありませんが、はっきりとした悪役です。
人工知能のアイデアそのものは古いですけど、今このタイミングでこのリアリズムで、というのがハマっています。

なっちの訳では“それ”とされてましたけど、“entity”つまりは実体、存在、実在(物)、本質、本体などの意味を持つ名前のヴィランです。
トム・クルーズは言わずもがな、監督のマッカリーさんは脚本家でもありますから、作り手にとってAIは一面的には脅威であるという実感が、そのまま映画になっているのではないか。

そういうことを考えながら観ていると本作はほぼ全編にわたって暗喩的というか、ひとつひとつのイベントやキャラクターが意味深に思えてきて、かなりクラクラしながら観てましたね。

「デッドレコニング」とは〝推測航法〟の意味ですが、それは本作におけるイーサンたちに課せられたミッションの形態そのものだし、ハリウッドに生きるすべての人の心情でもあるかもしれない。
五里霧中の中この方向を信じて進むしかない、ということですよ!

AIがヴィラン、といっても、「ターミネーター」のスカイネットよろしく、自我を得た瞬間に人間を敵認定し核ミサイルを…というような直情型の人工知能ではなく、どちらかというと「2001年」のHAL的な存在で、一気に攻めてきたりはしないのですが、結構リアルな感じでデジタル社会に侵入しコントロール出来ちゃうのがリアルです。
ていうか、あのなにかの意識に見られている感じの演出はまんまHAL。
 
…というようなこともありつつ、やっぱり娯楽映画としての安定の面白さ!

なんか、前後編であることもあるけれど、全体に語りたいこと描きたいことにじっくり適切な時間をかけている感じ。

冒頭の“それ”の暴走シークエンス(実際のロシアの原子力潜水艦クルスクを想起させて怖い)から、オリエント急行での「大列車強盗」的なアクションに次ぐアクションのスリル&サスペンスシークエンス(ジュラパも入っているよ)の終盤まで、見事な見せ場のつるべ打ち。ローマでのカーアクションは細かく新機軸二段重ねで面白くしているし(マッカリー監督の独壇場だ)、極狭空間でのハントとパリス(だからフランス語しか話さないw)との近接肉弾戦はけっこう地味に本作の白眉だと思うし、待ってましたトム走りのアブダビ空港での追いかけっことか、あらゆるところでレベルの高い、もしくは見せ方の新鮮さで、「M:I」シリーズとしてのクオリティがここにきてまた底上げされていて、恐ろしくなってきたりもします。
それがテクノロジーに由来するものではなく、マンパワーつまりは、一生懸命考えて面白くしました!という面白さだから、ちゃんと実(じつ)を感じるんだよね。
今まで以上に映画そのものの原典に立ち返るかのようなアイデアばかりで、特にアクションにおける身体性はキートンのそれですよ。
映画のオリジンに立ち戻るかのような手作りの大活劇の面白さ、というものが横溢してましたよ。
 (あとアクション優先に組み立てているらしい映画の作り方からして「マッドマックス 怒りのデスロード」ぽい感じもある)

また本作ではイーサン・ハントの諜報員としての原点にも触れていて、それで作劇上の必要でイルサが殉職するんだけど(ちくしょう!)、このあたりの過去の因縁は後編でより深く描かれると思いますが、しかしそこがちょっとクレイグ・ボンドの連作のような感じがして「ノー・タイム・トゥ・ダイ」のようにならないか心配です。
その因縁相手のガブリエル(大天使の名前、神の使いだ)もただの狡猾で超強い悪役という以上にミステリアスで、そのキャラクターが爆発するのも後編でしょうね。

そうそう新キャラクターは、ガブリエルさんもパリスさんもグレースさんもみんな(中の人も含めて)よかったよね。
マンティスことポムさんのクレイジー人情キャラが最高ね。
ヘイリー・アトウェルさん演じるグレースさんの役は「2」のナイアを彷彿とさせつつ、バックグラウンドの暗さと意志の強さをコミカルにチャーミングに見せていて、ルパンと峰不二子的な関係性の面白さを作ってましたよ。
ヴァネッサ・カービーさん演じるホワイトウィドウも今回、彼女の立ち位置がわかったので(合衆国に弱みを握られている)後編できっちりカタをはめてくれそう。
あとわたしの好きなシェー・ウィガムさんがいい感じのタフなCIA職員でかっこよかったね。ちょっと「逃亡者」のトミー・リー・ジョーンズみたいな。このキャラ過去作に出てたような出てないような…と思ったら似た役どころでワイスピにも出てました。「ジョーカー」でも追う刑事だったっけ。
久しぶりのキトリッジはCIA長官に出世していて(アンジェラ・バセットは壁で微笑んでおる)、謀と危機管理で眼筋が超ピクピクしている。あっためた小豆でケアして!

それから詮無いことだけど、ベンジーもルーサーもハントも年取ったなぁ…という感慨がありつつ一抹の寂しさがありましたね、詮無いことだけど。

だがやはり本作の肝は、クルーズ=マッカリーコンビによる大活劇を、大銀幕で観ることです。アクションスペクタクルをスクリーンで観ることです!
「あー面白かった。やっぱり映画は映画館で観るに限るね」
あなたのその一言のためにトムは崖から飛び降りるし走る列車の上で殴り合うしスタッフを怒鳴るんやで!

少なくとも、これから作られるであろう、大きな映画中くらいの映画小さな映画を映画館で観るために、トム・クルーズという男は身を挺して潮流に抗っているんだぜ。
そこんとこよろしく。

前編である本作は過剰なクリフハンガーを作るのことなく、ほどよい小カタルシスで、「次はどうなるの?」を後編に紡ぎます。
ベーリング海に沈んだアレをめぐる争いがプロットポイントのひとつになりそうだけど、凍てつく北極海の底よ?トム潜るんか?飛んだり落ちたりはやったから、深海への飽和浸水とかガチでやるんか?
そうそう「1」で下痢ピーで飛ばされたオッサンの赴任地はベーリング海近いアラスカだから、それで再登場するんだな、楽しみ!
(だとしたら20年近く左遷されっぱなしで不憫)

ダブルストライキの影響で撮影延期になって当初の予定だった2024年夏の公開は難しそうだけど、絶対完成させてくれよだぜお願いします。
ストライキはどうかどうか、よい着地点が見出すことができますように。切に願います。

そして、それで、また、イーサン・クルーズは世界と映画と大銀幕を救うのだ。

ちゃらーん♪
こうん

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