こうん

君たちはどう生きるかのこうんのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.0
前代未聞のノー宣伝ぶらり戦法で話題でしたけど、公開後にいくら文字面でネタバレ的なことチョイチョイ目にしてても、予告編などで本編映像を目にしてない限りはなんの予断も生まれなくて、そこが新しい気付きでしたね。
映画はやはり映像なんすよ。
それが稀代のアニメーション作家の作ともなればなおさら、その本領はその〝動く絵〟にしかないわけです。

というわけで宮崎駿御大の完成された絶筆を観てきました。

ちなみにわたし、周囲の人たちに「ジブリ嫌い」と思われております。全然そんなこともないんだけど(とくに好きでもないけど)、そう言われてしまうのはやはりわたしの人格に問題ありなのです。
「ラピュタ」超好きなんで、ご寛恕くだされ。

ま、そんな感じのアレですよ。
今回は作品に対する予断がないのでまっさらな気持ちで観れましたよ。

よくわかんね…ということも込みで楽しみましたー。
ちょっと眠気に襲われましたけどね。

かなり商売っ気抜きの、宮崎駿80代の人生の感慨を仮初めのストーリーに乗っけたファンタジー絵巻。
という感じですかね。

それでもって宮崎駿の映画群におけるアニメーション生理の満漢全席でした。
観たことのある描写が(宮崎駿にそんなに熱心な観客じゃないわたしですら)あれやこれやと想起されて、それはセルフオマージュということではなく、翁の手癖というか「こういう動きが好き!」の反復なのだ、という愛嬌があった気がしました。

宮崎アニメには重力と重心の描写への異様な執着を感じていたのですが、そのフェティッシュが炸裂してましたね。
もうそれが気持ちいいのと気持ち悪いのが一緒くたになった感じで、ゾワゾワしました。
あと物質の柔らかさの感じ、例えばプルプルとかフルフルとかブニブニとかブヨブヨとか、そのへんの絶妙な違いを嬉々として描き分けている気がします。
そういう意味では面白かったんですけど、異世界に入っていくあたりから付いていけなくなって、やはりわたしはそれなりの理屈がストーリーとキャラクターの心情にリンクしてないと全然興味を持てない、ということがわかりました。

ストーリー面でいうと不思議の国のアリスとかパンズラビリンスとか、幼い魂へのイニシエーション的な旅路、そういうことなんでしょうけど、それが単に面白くないというか楽しめなかった感じです。

設定だけでいえば主人公眞人は宮崎駿本人なんでしょうけど、キャラクターアークが捉えづらく、起こっていることに対して眞人のリアクションが腑に落ちず、次第に興味を失っていった感じです。

ただこの異様にドライな感じは80代の駿のそれだなとは思いました。

総じて面白いかどうか問われれば「面白くなくはない」と答えるし、好きかどうか問われれば「好きでもないけど嫌いでもない」という感じでこの映画の置き所に困っています。
御大の最後かもしれない映画だし疎かにもできんし。
最終的にポジティブな映画なのかネガティブな映画なのか、それすら判じ損ねているので、シンプルに合わないのかも。
ま、アンビバレントで真面目なエプロンおじさんですよね。
満座の映画館でこの映画を観れてよかった、とは思っております。

宮崎駿さん、次は15分くらいの凡庸な、もしくはトンチキな実写映画を作ってくれませんかね。

そんなことを思いながら、キリがいいのでわたしもサヨウナラします。
バイビー。
こうん

こうん