Taka

百花のTakaのレビュー・感想・評価

百花(2022年製作の映画)
4.1
まさか、ここまでアート映画的なメジャー邦画だとは…が最初に思った感想だ。確かにアルツハイマーや認知症、あるいは記憶を通して親子の距離を描いた映画は過去にもいくらかあるが予告を見た段階から妙にそうした映画とは何かが違う雰囲気を感じた。まあ、もちろん、あの川村元気が監督を手がけ、菅田将暉と長澤まさみと信頼が置ける俳優が出てる時点で観ようとは思っていたが、記憶と親子の距離感にまつわる探求は想像以上にアート映画的アプローチをした映画だった。

というのも映像表現がすごいと思った点が何ヵ所かあったからだ。ワンカットで撮った映像や浮世離れした反復表現などがメジャー邦画からしたらかなり実験的表現で描いたのはちょっと驚きでもありながら、記憶が消えていくという表現としてはかなり説得力を持ち、いつかは我が身に…という背筋を凍らせ得る表現としても成立している。その上でこうしたシーンたちは物語としてのフックにもなっているのがまた面白い。これだけを読むとアート映画と大差ない…と思うが、そのフックの答えとなる箇所でお金がちゃんとかかったであろうシーンが出てくる点も良い(あれどうやって撮ったのだろうか…)。

そして、演者も逸品を揃えた。菅田将暉の息子役、長澤まさみの妻役ももちろん素晴らしいが、やはり原田美枝子が主役の映画である。アルツハイマーに侵されるという役所をしっかりと掴んでおり、これはぜひとも日本の映画賞で主演女優賞をあげるべきレベルだ。「女優 原田ヒサ子」の経験も活きての起用かな?とも思うが。

こうしたアート映画的表現を多用した映画を邦画の天下である東宝が作って全国のシネコンで公開ということは大きな注目をされるべきであると思うと同時にこれまで自身の著書は他の監督に映画化させたにも関わらず、これだけは譲れないと自身が監督をし、プロデューサーとしての顔を持っていながらもプロデューサーだったら止める表現を率先してやり変な映画にしたと語るほどのことをした川村元気監督が作品に対しての覚悟と情熱を感じた点も良かった。やはりこういう映画を年に1〜2本、東宝や松竹などから出せるか出せないかでも景色は変わってくるだろうし、川村元気には今後も自身の著作などを監督する気概を持ち続けて欲しいとも思った。

という意味でもAIの要素が必要であったが、機能しきれなかったとは思うものの、個人的に期待したものはだいぶ詰め込まれていたので良かったし、こうした映画を東宝から作られたことが作品の良し悪し関係なく良かったとも思っているので結果を残して欲しい。じゃないと東宝などで作るときに「だって『百花』失敗したじゃないですか?」なんて常套句を俺は聞きたくない。

<雑文>
この映画、音楽がピアノ演奏を多用したり、環境音を重要視するような映画なので非常に静かです。なので、何が起こるかというと、というかこういうときに限ってスマホの着信音とか咳払いされると「良いところで…」なんて感情が走るのでそういうところも気をつけていただいて鑑賞することもお勧めします…
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