Taka

ブロンドのTakaのレビュー・感想・評価

ブロンド(2022年製作の映画)
3.8
2時間47分という長尺の中で何度醒めても終わらない悪夢に観た後も寝心地が悪かった朝の寝起きぐらいの居心地の悪さを感じる。もし、これから観る人に注意して欲しいのがこの物語はマリリン・モンロー(ノーマ・ジーン)が終始、悲劇のヒロインとして展開し、その中には家庭内暴力や性暴力、中絶手術などといったシーンが容赦なく映し出される。そういうのが苦手な人はもちろんだが、この手のシーンでトラウマを覚えてる人は確実に観てはいけない作品である。そのためにNETFLIX側は18+、アメリカの映画レーティングも最大のNC-17となっている。

この物語は5章ほどの構成、登場人物たちとの接点で物語が展開する。1つ目は母親、2つ目はチャールズ・チャップリンとエドワード・G・ロビンソンの息子、3つ目はジョー・ディマジオ、4つ目はアーサー・ミラー、5つ目はジョン・F・ケネディだ。この中には悪夢から掬い出されそうな展開がないわけではない。しかし、行き着く先はハリウッドの悪夢を描き続けたデヴィッド・リンチもびっくりするほどにいつも悪夢の底であり、次の人物と出会っても前までの悪夢の居心地の悪さが続いている。やがて、ノーマ・ジーンはマリリン・モンローという人物はおろか、自我をも失っていく辛さを追体験することで観客を悪夢のおとぎ話へと誘う。よっぽどの余裕がないと冒頭の時点で既に辛い。それが最後まで続いていく。

私は見ていくうちに「新世紀エヴァンゲリオン」の第弐拾弐話「せめて、人間らしく」を思い出していた。惣流・アスカ・ラングレーが精神汚染されていく回である。あの回では途中、自らの存在意義を何度も確認するも「違う、こんなの私じゃない」と叫ぶシーンがある。本作はそれが永遠に続いていると思ってもらえれば分かりやすいか?そして、そのエピソードと本作の相似関係はそれだけでなく、母親というキャラクターとしての立ち位置(精神疾患がある点)も、象徴的アイテムとしてぬいぐるみがあること、そして、何よりアスカとマリリンは作品そのものも含めて消費されていくヒロインとして自我を失わせていく精神性を持たせている点も似ている。参考にはしてないだろうが、もし連想された方はこちらにコメントを残して欲しいくらいだ。ていうか、エヴァは同じくNETFLIXで配信されているので合わせて見てみてはいかがだろうか。

というわけで、ここまで書いたとおり、明確に辛いのである、この映画は。原作者も監督もマリリン・モンローを悲劇のヒロインとして描きたいというビジョンを明確に持っている。もちろん、そうした史実がないわけではないし、アンドリュー・ドミニク監督のこれまでのフィルモグラフィからマリリンの伝記映画をただ描くわけがないことも明確である。何なら、現代でこの作品を描くことによって、業界の旧態依然はここで締めようじゃないかとする見方も製作陣にはあったのかもしれない。しかし、功績もあったであろう一人の登場人物をここまで悲劇的に描き、救われない描き方をしたところではむしろ逆効果じゃないか、というか、逆張りすることで真理が届かない構造になってないかと思うわけだ。おそらく、まだ配信開始直後なので批評家が酷評ムードだな…で済んでるが、ここ数週間で世界的に大論争になってもおかしくはない。しかし、この映画を観る覚悟を決め、2時間47分見終えたのならば、この映画の存在意義も含めて誰かを消費する/されることについて考えることこそが本作の真意になるのではないだろうか?もうそう考えないとこの映画を反芻することしか私はできない。

ここまで酷評気味でもあったが、やはり、マリリン・モンロー/ノーマ・ジーンを演じたアナ・デ・アルマス(吹替の水樹奈々もよく頑張った…)の演技はマリリンを憑依させることに成功している点で評価せねばならない。演技の立場上、かなり見世物になってしまい、必要以上に裸を曝け出してしまい、今後のキャリアに支障が出るんじゃないか?と思うほどだが、今後の賞レースでどう絡むのかは注目したい。また、撮影を手がけたチェイス・アーヴィン(「ブラック・クランズマン」など)の手腕と「ウェス・アンダーソンか!」とツッコみたくなるほどの映像サイズとモノクロ/カラーが縦横無尽に切り替わる映像編集で幻想的な悪夢のおとぎ話という目まぐるしい冒険に仕立てたスタッフの手腕も評価はできる。

現代においてもなお、マリリンをここまでの悲劇のヒロインとして消費することを肯定はできないし、他人にお勧めすることはできないが、作品が持つ力と手腕に関してはただでは終われないものがある。だからこそ、ここまで長文で書いたのだ。まあ、無理して本作観るくらいなら、NETFLIXにある「知られざるマリリン・モンロー: 残されたテープ」を見りゃ良いんじゃないですかね?
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