Taka

線は、僕を描くのTakaのレビュー・感想・評価

線は、僕を描く(2022年製作の映画)
4.3
競技カルタを描いた「ちはやふる」チームが次に描いたのは水墨画。「ちはやふる」シリーズで築いた青春映画のノウハウを活かし、生命力が躍動する水墨画の世界を魅せ、観客に活力を与える青春映画、そして、師弟映画の傑作が誕生した。

個人的に「ちはやふる」シリーズはそれはそれで良くできており面白いが、正直、高校生の青春キラキラを好んでいるわけではない。ティーンのもどかしさを描いているほうが好きで、中学生の陰湿さとか、大学生の社会人に向かう中での彷徨いのほうが好みだ。なので、正直言わせてもらうと、こういう作品は「待ってました。」だし、「ちはやふる」シリーズよりも好きであり、このチームの真髄を改めて感じたのだ。

主人公である横浜流星の下手に主役を張るわけでもなく、弱さと優しさを持ちながら将来を見出せない大学生の役所も、清原果耶の秀才ゆえに焦りと強がりを見せる役所も、江口洋介のリタイアしたものの、若者である主役2人を陰ながらサポートする役所も、三浦友和の人生のタイムリミットが迫りながらも自らの筆を止めずに後世のために道を教える師の役所も、河合優実と細田佳央太の主人公の親友という役所もそれぞれがそれぞれの役所をしっかりと全うしていた点も非常に良い。特に江口洋介の存在意義こそが本作をより面白くしたとも思っていて、 物語を前進させるエンジンとして大いに活躍してくれたと考える。「るろうに剣心」の斎藤一役以降「七人の秘書」や「ネメシス」など主人公たちをサポートするおじさん役が非常に上手い立ち回りをしているし、そういう役所を今のうちに堅実にやっていれば、良い大物俳優になるのではないか?とすら観ながら思った。

そもそも、演出自体も「ちはやふる」などでのノウハウが活かされており面白いのだが、物語の鍵の開け方(物語の拡げ方)がめちゃくちゃに上手だと思った。冒頭、なぜ、主人公が水墨画に泣いたのか?なぜ、主人公を弟子にしようとしたのか?といった答えを少しずつ丁寧に明らかにしていくことで本編のテンポがとても良く感じた。ぜひ、その観点で観て欲しい。正しく水墨画のように徐々に墨(登場人物や物語)は広がっていくが、その核にははっきりとした濃さ(理由)が次第に露わになってくるのだ。

また、水墨画のようにという喩えでもうひとつ現すならば、本作は余白にも味が出ている。必要以上の説明台詞はなく、クライマックスに至ってはダイジェストの駆け足気味で途切れ気味に終了をする。しかし、それでいて、物語を観客たちに補完が容易に出来る仕組みにはなっている。というか、本作の意義は結果論ではなく、過程を味わう映画なので、結末で示される物事を丁寧に描く必要性などないのだ。

道で止まるのではない、道を自らの手で切り拓け。横浜流星や清原果耶の主役2人だけでなく、江口洋介や三浦友和の2人のような立場がそれぞれいるからこそ物語は若者でなく、全ての人々に開かれた生きる活力を与えてくれる映画として様々な人に勇気を与え得るのではないか?
Taka

Taka