Taka

沈黙のパレードのTakaのレビュー・感想・評価

沈黙のパレード(2022年製作の映画)
4.2
コミカルもシリアスも過不足なく詰めたドラマ版のようなバランスの良さはシリーズの集大成を物語っており、福山雅治の湯川学に対する板付きも柴咲コウとの名コンビも北村一輝のキャラ像の形成も多くのゲストが複雑に絡む人間ドラマも良かったが、そんなことよりも飯尾和樹の名バイプレーヤーを彷彿とさせる演技には呑まれた。

ガリレオシリーズは元々好きではあるし、どの作品も一定以上は満足しているが、「容疑者Xの献身」はシリアスすぎ、「真夏の方程式」は番外編感が否めず、もうちょっとドラマ版寄りな物語を欲していた身としては本作で湯川学(福山雅治)と内海薫(柴咲コウ)のコンビが復活し、映画では初めて(だったよね?)「vs. 〜知覚と快楽の螺旋〜」がちゃんと流れた(数式書くシーンではないが)ので一定の満足はこの時点で得られたと個人的には思う。その上で北村一輝演じる草薙刑事の警察という職に対しての葛藤を物語のポイントにした点もドラマ版からの歴史を引き立たせる上でも良かったと思う。

また、本作はこれまでの作品以上に複雑な人間模様を描くためにゲスト陣にも近年の活躍ぶりをそのまま役に落とし込む気合の入れようを感じた。村上淳と酒向芳の読めない演技も吉田羊や田口浩正のご近所のおじさん・おばさん演技も椎名桔平と檀れいの申し訳ない裏がある感じもよく出てたと思う。そして、何よりも本作のMVPは飯尾和樹である。これまでコミカルな芸風から優しいおじさんや上司の役柄が多かった中で娘を殺された父親役という難しい役所を見事に捉えて新境地を拓いたことが物語の面白味を増した要因だと思う。飯尾和樹は名実ともに名バイプレーヤーの仲間入りをこの作品を持ってして果たしたのではないか?

こうした豪華絢爛なキャストの中から犯人は誰だ?みたいな展開は昨年同時期に公開され同じく東野圭吾原作・フジテレビ製作の「マスカレード」シリーズを彷彿とさせる作り(おそらく意識はしている)でもあり、良い意味で面白いフジテレビ映画を観てるな…という感じを味わえたのも満足。もはや、湯川学なしでも事件を解決しようと思えばできるだろ!のツッコミがある中で湯川学を金田一耕助、古畑任三郎のようにゲスト俳優たちと対峙させる構図にしたかったのはフジテレビが今後も出来るものならシリーズ化していきたいという現れにも感じたし、9年ぶりに復活するからにはこれまで出てない俳優たちをかき集めてきました!とも邪推出来るが、まあ良しとしよう。

今回は黙秘を続ける加害者に対する被害者家族と周囲たちという重くかつ様々な人間模様が交錯する多層的構造な物語の中でかなり俳優たちに救われた作品だな…とも思った(そういう意味で先述したフジテレビ的満足感をもたらすアプローチをしたのだろう)。

改めて映画を通して原作者・東野圭吾が問いかける一つ一つの声が具現化する社会の中で沈黙の影が破られたときの衝動。それでも人々は沈黙の影を保ちながらパレード(生活)は続いていくが、物語はほろ苦さを持ちながら終わっていく。「祭り(パレード)は楽しんだもん勝ち」というセリフが独り歩きしながら。

<雑文>
同日公開の「ヘルドッグス」とキャストが色々と被っている上でジャンルが違えど、加害者と被害者の関係性が物語の要素の一つなのが一緒なのは興味深かった。ぜひ、「沈黙のパレード」→「ヘルドッグス」の順で観たら北村一輝の役柄を加味すると面白いかも。やはり、SNS社会によって増した被害者感情に対する声の大きさの反映なのだろうか?
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