きまぐれ熊

グリッドマン ユニバースのきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

グリッドマン ユニバース(2023年製作の映画)
4.4
面白かった。
初日の反応で感動したとか泣いたってレビューがいっぱいあったので大団円の最終章を期待したんだけど、予想とは違って丁寧で着実な落ち着いた内容だった。
グリッドマンとダイナゼノンと地続きのパーソナルな人間ドラマこそが主軸でバトルは比喩表現。
見てない人が勘違いしない様に付け加えると映像表現や設定は、劇中キャラが「フィクションなんて滅茶苦茶な方が楽しい」って言っちゃってる様にぐっちゃぐちゃのカオス&カオス。令和最先端のお祭りカオスムービー。アニメでしか出来ない(後述)メディア表現で「特撮」をちゃんとやってるな〜って印象。

グリッドマンシリーズにおけるインフィニティーウォーとエンドゲームをまとめてやってる様な内容なので初見で行く人は、要注意。筋は追える様に作ってあるけど、純粋にバトルが楽しめる作りかって言うと怪しい。なのでアニメ観てからの方がおすすめです。まあシリーズ纏めて2クールで、それぞれ完結してるから観やすい内容なので追いやすいと思います。
それとは別にアニメの目新しい表現自体に興味がある人は見所だらけなのでストーリー知らなくてもお勧めできる。サイバーパンクエッジランナーズからトリガーを知って尖った映像表現にやられた人は見てみて欲しい。



以下、ネタバレあり。
ネタバレなしで語れる所ない内容ですし。



グリッドマンシリーズの総括というよりは、
SSSS.グリッドマン正統最終章×SSSS.ダイナゼノン&実写グリッドマンファンムービー
な感じ。
まあそうだよね。

裕太のストーリーが全く終わってないのに対して、蓬と夢芽のストーリーは完璧に終わってるもんな。実写版はちゃんと追ってないからオマージュはさっぱりだけどこれもあれもそうなんだろうな〜っていうシーンがいっぱい。実写版まで抑えてたらより興奮できたんだろうね。バイク兄ちゃんが実写からの超重要なファンサなんだろうなって事は汲み取った。

知らない人向けに一言で説明するなら、まどマギ劇場版をグレンラガンのノリでやったらまあこうなる、みたいな映画だった。


個人的な印象的なポイントは3つ
荒唐無稽な展開とは裏腹に今の時代にマッチした堅実なテーマ
アニメ表現に囚われない媒体別の強みを冷静に突き詰めたアイディアの数々
アップデートしたセカイ系とマルチバースの取り込み方が上手い


この映画マジで混沌としてるんだけどテーマがめっちゃパーソナルな変化で語られるので、映像は無茶苦茶としか言いようがないのに、ストーリーが超まっすぐ。色々突っ込みたいポイントや情報過多すぎて飲み込めないカオス祭りなんだけど作画の勢いと音楽とCVのパワープレイで押し切られる感じ。その動に反してキャラクターのドラマが展開するシーンはしっかり間を使ってくるので緩急がジェットコースター。
流行りのマルチバースも特撮モチーフらしくちゃっかり乗っかってるんだけど、ロジックはアホみたいに強引。強引なんだけど、そういう設定ですと言われればまあそうですか、と受け入れるしかない内容。
重要なのは、別にマルチバースだろうがなんだろうが不思議なことや無茶なことがあったとしても、フィクションの本質はリアリティがあるかではなく、結局どう感じるかだから
設定の整合性自体は対して重要じゃないとテーマにおいても明言している所。
SF的な理詰めを放棄して、その分、フィクションに対する向き合い方を丁寧に理詰めしていて脚本はすごく丁寧。

文化祭の演劇でグリッドマンを演るというエピソードを通して、メタ的にグリッドマンを批評するという視点が無理なく取り入れられているのが効いていて、
作品内で実際あった話なのにクラスメイトにリアリティが無いと一蹴させるところが巧い。
そんな事分かってんだよ、という認識を観客と共有した所で、マルチバースで他作品のキャラが大した理由なく集合する。
そしてそれらに大したロジックも用意していないところも(いや一応あるけどw)、重要なのはそのフィクションで何を語るかなんだよ、という方向性で集中させる事にむしろ貢献している。

世界が作られたものである、という1期グリッドマンのぶっ飛び設定は、セカイ系にも通じる諸刃の設定であり、ある意味で夢オチに近い興醒めを誘発させてしまう。
だって作られたもので結局現実じゃ無いじゃん。っていうそのツッコミに対して、自分たちが被造物である事を知ってしまってなお受け入れている主人公達を通してフィクションを肯定しているのはテレビ版でもあった要素だけど、そんな事より恋の方が大事だろ!ってエピソードで補強しているのもエピローグとして相応しい内容だ。
しかもこれ怪獣よりもバイトとか恋の方が大事だし、っていうダイナゼノンのテーマの踏襲でもあるし。
混沌とした設定とは裏腹に、1期では語られずじまいだった裕太の物語と、立花の成長を描いてるのが綺麗に地続きでよく綺麗にマルチバースを取り込んだな〜って感心してしまった。パワーのある脚本だわ。


映像表現としては
何といってもキレキレのトリガー節アクションの数々の勢いが衰えてない事。衰えてないっていうかずっとキレが増し続けてる。最初の怪獣登場シーンの車のぶっ飛び方で「あ、トリガーのアニメだ」って分かる。
ともすればギャグレベルの躍動感。実際キルラキル辺りまではギャグシーンだった異様な躍動感が、サイバーパンクではどシリアスなシーンにもキレだけ残して違和感なく取り込まれていた。本作でもその流れを汲んでいて、キレキレ過ぎる異様なテンションなのに、シリアスな流れを崩さないまま大量にぶち込まれる感じ。
その上で、アニメーションという表現にこだわりすぎてないのも視野が広くて好感が持てる。
サイパンでもあったキャラクターのコピー&ペースト芸もあったし、虚構の表現にドット絵やモザイク、意識の消失を直感的に伝えるブラックアウトなど、手で描く事にこだわってるだけでは生み出せない様な野心的なアイディアがいっぱい。お気に入りは雑魚怪獣を倒した時のフォトショの選択ツールでカットしたかのような切り貼りによる斬撃表現。
そして極め付けがストーリーのメインラインに突如ぶち込まれる実写パート。しれも実写を出す前振りや言い訳じみた説明が一切なくいきなり入る。もちろんアカネが居た世界を実写で表現する事自体は1期でも行われていたアイディアだけど、あれはあくまでもEDやポストクレジットとしての位置付けで外郭でしかない。本編はあくまでアニメ作品としての体裁を保っていたのに対して、今回は上映時間のど真ん中で現実の人間として実写の新条アカネが突如登場する。
そこまでならシリーズ視聴者的にも予想の範疇なんだけど、凄いのは実写のアカネからアニメキャラクターへと次元の壁越えを当然の様にやってしまった事。
実写のキャラクターとアニメキャラクターが同居する作品は幾つもあちゃけど、一つのキャラクターが次元を飛び超える現象を表現する為に、実写とアニメを単一作品内で使い分けたのはかなり革新的なんじゃなかろうか(アバターとしての表現で実写キャラをアニメやCGで表現する事例はレディプレイヤー1とか、それこそ映画アバターとかであったけど)。

この次元の壁越えをアニメ←→実写で表現するって手法、次のスパイダーバースかマルチバースサーガ中で絶対やると思ってたけど、トリガーに先越されちゃったね。
ドクターストレンジMoMでチラ見せはあったけど、あくまでワンアイディアでシナリオ上の意義を感じられる使い方じゃなかったしね。頑張れスパイダーバース、これ絶対やるやろ?


あとテーマに関して言えば
印象的な目のカットの多用。

目に関してはテレビシリーズから重要なモチーフとして扱われてて、虹彩の色で所属や本質が示唆されていた訳だけど、今回は目そのものというより、「見つめる」という行為自体にフォーカスを当てたカットが多かった様に思う。

怪獣の目でアカネを見るアンチ
爆散したアレクシスを見つめるアカネ
見つめ合ってお互いを受け入れる裕太とグリッドマン
目を逸らすのをやめて裕太を見つめる六花のラストカット
などなど見つめ合えた関係性はこれからも続いていくし、そうでない関係性は別れになるって作りにもなってるけど、テーマ的には相手を通して自分を見つめ直す、自分の客観視の表現なんではないかと思う。

最終的に勝利する決め手がグリッドマン が自分の弱さを受け入れた事と、ラストシーンに自分の変化を見つめ直した六花という着地点を持ってきた所がその根拠
六花に関してはアカネとの別れから自分の大切なものを再確認するというきっかけがあって、そこへ至るには
グリッドマンの弱さや裕太の気を逸したのろまさが必要不可欠だった事から
最終的な着地点として、ありのままの自分を見つめる事や弱さへの肯定が落とし所になっているのは上手いな〜と思いました。

という訳で、ヒーローはグリッドマンと裕太なんだけど、物語で最も変化したのは六花であり実は彼女が主人公だったと言えそうです。
1期の時点ではグリッドマンではない方の裕太に対する肚の底が読めないまま終わってて、そこが唯一の未消化の部分だったんだけど、ご想像にお任せしますとも取れる閉じ方をした割に上手い事消化したなと思います。


ファンムービー目線としては
ガウマに再開できた蓬
姫が描写された事とそれ以上余計なことを描かなかった事
インスタンスドミネーション再び
アノシラスの陰キャ笑いが聞けたこと
あたりが最高でした

ダイナゼノン勢ばっかじゃねーか
蓬が人間的には嫌いなんだけど、瞬間最高風速は本作でも間違いなくインスタンスドミネーションだった(これダイナゼノンの感想でも書いたな)
姫は2期の時点で個性強いんだろうなと思ってたけどどエロいねーちゃんでビックリしました。ガウマの趣味っぽくなくて意外だったけど、あんな面白聡い人だったらそりゃ惚れちゃうよな。ワンシーンしか出てないのにインパクト凄かった。あれ自分が虚構の存在だって分かってるんだよね多分。

あと気になる点としては、アカネがツツジ台に来た時の衣装が怪獣優生思想だった事。怪獣使いだった繋がりからの単なるファンサ?それとも怪獣優生思想の出自を示唆してるのかな?


不満点としてはちせのその後の展開が無かった事です。
明確に1人だけ変化のその後が描かれてなくて惜しい。
確かにゴルドバーンとの絆を感じさせるアレコレはあったけど、そこじゃなくてちせのアイデンティティーそのものを肯定する結末、ダイナゼノンのシナリオ的に明らかに足りてないんすよ。別に不登校を止める必要は一切なくて(むしろそれだと一気に嘘になる)、アクセサリーのネット通販を始めたとか、タトゥー屋でバイトを始めたとか、そういうパーソナルな面での肯定のやつですよ。
各キャラに細かいフォローがあるのにむしろワザとか?ってレベル。なんかスピンオフとか期待していいんですか?
暦くんはまあこんなもんな扱いがリアリティあってむしろええやろって感想。セリフ少ないけど熱いセリフあったし。

以上です。長すぎねぇ?
きまぐれ熊

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