きまぐれ熊

ブリグズビー・ベアのきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
3.9
あらすじのエッジが効いていたので鑑賞。
導入や底に敷いてあるテーマがどっしりした重みのあるものに対して、展開はやや都合がいい部分も多くてヒューマンドラマよりもややコメディ寄りと言えるかもしれない。
ただ、伝えたいテーマや決して偏っていないバランス感覚があるので、読後感はかなり爽やかでいい感じ。粗を無視して乗っかれたらかなりの名作です。

ただこれ、何が良かったかって書く時点でスポイラーとまでいかなくても、そこそこネタバレしちゃうのでふんわりしたネタバレOKな人だけ読んでください。でも知らないで見た方が先が読めないので引き込まれると思う。



公式のあらすじとしては、
外界を知らず両親の元で暮らしていた青年は、25歳のある日、両親だと思っていた人間が赤ん坊の頃に自分を誘拐していた犯人だったと知らされる。
偽の両親は逮捕され、実の両親の元に返されるわけだけど、隔離されて育っていたので彼は外の世界の常識を知らされていない。唯一の外との接点は、研究するほど好きだった教育番組「ブリグズリー・ベア」だけ。
そのズレは周囲との騒動を生んでいくが...。
って所までがネタバレなし。


ただこのあらすじだとこの映画の面白さが予想しづらいんだよね。


もう少し踏み込んだあらすじとしては、
このブリグズリー・ベア、実は偽の両親が作っていたウソの番組。唯一の外界との接点だったものが自分しか知らないものだった。そこで彼はブリグズリー・ベアを自分の手で完結させるために映画を撮ることを決める...。
という話。

このブリグズリー・ベアを撮るという行為に色んな意味が重なっているのが秀逸で、
青春や過去との決別、創作への愛、フィクションとそれに関わった犯罪者の関係などなど、視点によって込められているテーマをそれぞれ切り出せる構造がとてもいい。
個人的には創作を始めたての無限の楽しさが伝わってくるポジティブさがめちゃめちゃに刺さって、重いテーマの割にコメディとして観れるのが好みでした。主人公のジェームスは内気な様でいて行動力がバカなので実に映画監督向きの資質だと思う。
途中でおいおい、って展開が散見されるのもコメディとしての粗というより、意図的に、いわくが付いてしまったり犯罪者が関わった創作物がそれ自体すらも断罪されるべきなのか?っていうテーマに絡めてると感じられた。創作への愛が伝わる事を意図した展開の無茶がある。
ブリグズリー・ベアは罪の象徴であり、ジェームズの青春であり、生きる標であり、愛の象徴でもあるんだよね。そこと犯罪への赦しをごっちゃにせず、作品への愛一本で貫く姿勢には製作陣の矜持も感じられる。

劇中でのブリグズリー・ベアを作っていた偽の父ちゃんがハーク・ハミルってキャストもこの映画の味を深めてる。スターウォーズオマージュとしての意図もあるだろうけど、さすが名声優としての評価されている演技だった。罪を罪として肯定しないまま、創作物は否定しないっていう感覚。当たり前だけど尊いよね。
きまぐれ熊

きまぐれ熊