きまぐれ熊

ゴジラ-1.0のきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.9
面白い方のザ・邦画って感じ。
人間ドラマの仰々しさや記号的なセリフが悪い意味で監督のクセが強く出てるな〜
と思う反面、
アニメ的なキャラ造形や演出や、ゲーム的なシチュエーションが記号的な人間ドラマと上手く噛み合ってると思う。

よく考えたらこれ脅威がゴジラじゃなくても成立するかもってシナリオのプロットなんだけど、それこそが災害の比喩として始まったゴジラの正しい使い方とも思える。

キャラクターはかなりアニメっぽい。
特攻隊から死に損なった主人公、
早口でなよっとしているが、人間味に溢れて頭が回る学者、
口は悪いが情に厚い船長、
イキりがちだけど口だけじゃない下っ端船員、
など味方チームがいい意味でも悪い意味でははっきりしていて、その他モブキャラにもハッキリしたキャラ造形があるのが魅力的。ゴジラに立ち向かう部隊の座組も無理なく自然なので純粋に人間を応援できる。特に、主人公にとって重い楔になる整備士・橘や、主人公にあたりが強い隣人の燈子は人間の明暗のグラデーションが見事に描かれてて凄く好き。

ゴジラに関していえば、かなり舞台装置よりの役割なんだけど、ギミックとか造形が魅力的な脅威として映っていて、画面から飛び出す脅威という印象。一歩間違えればホラーに突っ込むギリ手前の、ファミリーで見れるギリギリで上手いバランス。
熱戦吐く前に背鰭が発光して隆起するの、オタクが絶対好きなやつ。デストロイヤーゴジラを思い出すようなグロテスクさがとても好み。あと足がやたらとデカくて鱗の質感も相まって全体的に魚類っぽい。今回は海洋生物っぽさが独自性のあるデザインだった。

脚本に関しては、ゴジラを倒すために人間が団結する過程に無理がなく、かといってシンゴジのような職業ものとは違う側面で人間の戦いを描く舞台設定の立て方が丁寧で良かった。シンゴジとは違いむき出しの感情で災害に立ち向かうという構図は失敗すると陳腐になるけど本作は素直に応援したくなる。これは主要メンバーのキャラがよく立っている事と、やれる事をやろうっていう素直なメッセージの掛け合わせがまっすぐ絡み合っているのが大きいと思う。

あとはゴジラが猛威を振るうシーンが結構ゲームっぽいのも映画の新時代を感じさせて面白かった。海上でゴジラに追いかけられるシーンはFPS的。ここはプレイアブルとカットシーンの切れ目が見えるレベルでゲームっぽかったw
東京でゴジラが大暴れするシーンはアクションアドベンチャー的なカットがあって今時だな〜って感じ。
予告で危惧されてた直接的なグロ描写は意外になかったです。とは言ってもがっつり一般市民が犠牲になってるのでヌルくはないです。画面が綺麗に見えるだけ。


良かったところはこんな感じだけど、悪いところは明確にあるタイプ。
致命的に感じたのは家族の描写。主人公はいわゆる擬似家族を持つんだけど、生活感がセリフや掛け合いからあまり感じられない。もうこれ監督のクセなんだろうな。セリフがどっかから借りてきた言葉っぽさが強くて、生活感のある生々しさが感じられない。男女の機微や、幼児の自我に対する解像度が薄い。プロット自体はエモいはずなのになんか薄いんだよな〜。あのくらいの年の女の子ならもうちょっと周り見えてる振る舞いするよ。
かと思えば、対ゴジラチームの仲間間では相手を慮った上での生々しい感情のぶつかり合いや信頼が感じられるセリフがあるので、一重に家族ドラマに対するこだわりが薄いんだと思う。ヒロイン典子や娘との関係性はプロットに準じてきちんと演出されていれば、もっとずっと別の映画レベルで感動できたと思うので、もう少し家族に思い入れ持って演出してほしい。悪いところの特撮感を引き継がなくていいのに。

明確な不満としてはこの辺りで、他にももうちょっと上手くやれたんちゃうっていうポイントはいくつかあるものの、メインのゴジラに立ち向かう市民という構図は十二分に描けていて、今までに確かになかったゴジラが見れたので満足できました。これはシンゴジが作ったハードルを考えると賞賛されるべき事です。



一個だけネタバレ感想。
主人公の特攻シーン、あれ爆弾の安全装置と同時に脱出装置が作動する橘の騙し打ちの方がエモかったよね。って友達と話してて思いました。
全部説明しちゃうのは観客を舐めてるのか、それだけ観る側(主に日本)のリテラシーが低いという事なのか。
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