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すずめの戸締まりのBellenのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

●久しぶりの新海誠作品。予告を映画館で観た時から、これまでの映画とまた同じような作品の構図(何らかのファンタジー的トリック×青春感×美しい天気描写)を感じ、もしかしたら今年は映画館で観ないのかもしれないと思っていたが、結局鑑賞。

●大きな結論からすれば、良い意味で予想を裏切られた良い映画だった。開始30分から1時間は、ファンタジー要素が強すぎ、なぜ、鈴芽と草太だけが超能力的に扉やミミズ(日本列島で古から地震を巻き起こしていると思われる呪いのようなものと理解。扉に戸締まりをして、また、ミミズに要石(当初はダイジン(猫)⇨鈴芽が解放して一旦草太に⇨最後はまたダイジンに)で楔を打って沈めることにより、これの発出・防潮を防ぐのが大きな目的)を視認できるのか、そもそもなぜそんなものが存在するのか、などツッコミどころが非常に多く、完全に期待はずれな作品だなと思いながら観ていた。

●最終的に評価を上げた要素は、個人的には、リアリティの要素。後半に行くにつれて、リアリティの要素が強まっていった。主人公の鈴芽が家出をして、戸締まり活動をするために日本列島を東走していくが、その過程で出会う各地の人々(旧来の友人家族の温泉旅館、道中で出会ったおばさんが営むスナック、草太の親友?である芹澤朋也など)との何気ない交流は、ファンタジー要素を忘れるくらいに心温まる。

●さらに、最終的に朋也の車に乗って、常磐線を駆け上がるシーンが個人的には非常に胸を打たれるものがあった。まず朋也が車中で流すBGMの8ー90年代のセンス、長年同棲していた鈴芽の叔母(環さん)との喧騒(鈴芽の母との死別の後に自分の人生を捨ててまで女手一人で育ててきた鈴芽に反抗されることへの無念さの発露)など、登場人物が少ないからこそ、一人一人の人物の背景にしっかりとスポットライトが当てられる。

●「行ってきます」「行ってらっしゃい」「ただいま」「おかえり」。当たり前の日常が当たり前とは限らないという表現。福島県の6号線を駆け上がる帰還困難区域のシーンや東北にある海岸の景色を見られなくするほどの防潮堤というシーンは、本映画が地震や津波などの自然災害というリアルな要素と、ミミズや戸締まりというファンタジー要素を融合させる取組する中においても、リアルな要素が浮き彫りになっていて良いなと思った。

●最後に、個人的に1番グッと来たシーンは、全てを終えて鈴芽と環さんが地元九州に戻る過程において、道中に立ち会った全ての人に会っている静止画が複数枚スライドショーで示されるシーンであり、繰り返しになるが、ここにおいてもリアリティの要素が自分の中でのこの映画の評価を押し上げることになっている。

●公開に際した新海誠のインタビューの中から印象に残った点を以下に書いておく。
・場所を悼む物語というコンセプト。鎮魂祭などはあるが、いざその場所が失われる時は何もない。
・どのように閉じていくのか
・エンタメ要素を付け加える試みの結果が、少女と椅子(草太)のバディ。
・風化していく震災について、今でなければ間に合わないのではないか
・震災文学の1つとも言える

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二回目鑑賞&考察動画視聴後追記

●2回目の鑑賞をした。結果、3.9から4.0に引き上げた。2回目ということで、初回に違和感のあったファンタジー的な要素を冒頭からすんなり受け入れられた。ダイジンも悪意に満ちたキャラクターではなくて、むしろ要石として守り続け、今後も守っていく神的だが、この映画の僅かな時間軸の中でふと鈴芽に召喚された寂しく切ない存在として認知できた。

●初回は、昔の鈴芽と現在の鈴芽が交錯するクライマックスのシーンが何故かほろりとしなかったが、今回は、そこが1番グッときた。震災で母を亡くしたことを頭では理解しつつも感情が追いつかずに常世でもずっと探し続けている鈴芽(昔)と、あの日自分が椅子とともに出会った女性は自分だったと悟り、「あなたはこれからもたくさん愛するし、たくさん愛される」という前向きなメッセージを送った鈴芽(現在)の儚い交わり。グッとくるものが来た。また、その際に、ソウタと鈴芽(現在)をおぼろげながら見たことで、最初の出会うシーンで初めて会った気がしないというところに繋がってくるという点も理解が出来た。

●その他、解説動画を見て、なるほどなと思った点は以下のような点。
・君の名は、からずっと日本神話をモチーフにしていること(そしてテーマが繋がっている)
・扉を閉じる際の呪文の中にある「拝領」という言葉が、人間が自然を自分のものとしてた傲慢さに対する強い反省が含まれていること
・そもそもミミズというのは、人間の意識の集合体が作り出した歪に出来ること、そしてそれは、特に、人間が好き放題自然を開拓し、後始末もろくにしないような場所に顕著に現れること
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3回目。やはりとても心に刺さる話だ。4.3に引き上げ

ディテールも一つ一つよく出来ている。

●お母さんがスズメの誕生日に椅子を作るシーン、あえてモノトーンで椅子の黄色だけ鮮やかにすることで、良いコントラストとなっている。

●静と動。東京上空のミミズ蠢く動に対し、震災を振り返るシーンの静
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