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ケイコ 目を澄ませてのyuminagabeatoのネタバレレビュー・内容・結末

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

シネ・リーブル梅田にて鑑賞。予告の雰囲気と岸井ゆきのさんの演技が堪能できそうで楽しみだった作品。実は劇場のシートに座って場内が暗転し、タイトルが表示されるまで「耳を澄ませて」だと思っていた。耳の聞こえない状態で耳を澄ますなんて深いタイトルだなと思っていたが、目を澄ませるなら大納得なタイトル。感想は一言で言うなら「1人の聴覚障害を持つ女性の日常」。どうも自分には映画を深く味わうだけの感性が備わっていないようで、実は世間でいうような胸に迫るものもなければ考えさせられるものも見つけることはできなかった。良いところは確かにある。岸井ゆきのさんの演技は文句なく素晴らしい。完璧だ。それから全編を通して溢れる日常音やボクシングジムの練習音が心地よいBGM、効果音として映画を際立たせている。自然な音。人工物が出す機械的な音を自然な音と表現するのは何だか変だが、雨音と同じくらいボイラー音が好きな私にとって、それらは同じくらい自然な音なのだ。そして何より好感が持てたのは、聴覚障害者が主役でありながら、今はすっかり地に堕ちた某チャリティー番組などのように、障害者の生きる様を殊更に美化することなく、淡々と描いているところにある。見知らぬ人にぶつかって悪態をつかれ怒鳴られてもケイコには聞こえない。聞こえないから何とも思わない。それは少なからず自分に取って聞きたくない言葉、いやなことを避けることができるということではないか。そういう意味でケイコは幸せな世界に生きているのではないかとも思ってしまう。残念だったのはエンターテイメントとしての物語のドラマチックな盛り上がりが全く感じられなく、どこから盛り上がっていくのかと思っているうちにエンドクレジットに入ってしまったところ。もう少し展開してくれたら良かったのにと思ってしまった。自分の身体には幸い不自由なところはない。ないから障害を持つ人の苦労は知るよしもない。想像するのも失礼なくらいの苦労に違いない。だけど自分も身体の不自由がないだけで、色々と苦しみながら生きている。健常者も障害者もみんなそれぞれに、必死に生きている。そこに何の違いもない。それでいい。そんな風に感じられる映画だった。
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