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宮松と山下のyuminagabeatoのネタバレレビュー・内容・結末

宮松と山下(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

シネ・リーブル梅田にて鑑賞。話題の香川照之さん主演ということでどうしても観ておきたかった作品。一言で説明するなら「人は皆、人生という名の映画の主役を演じる生き物だが、不幸にも主役を演じられない人もいる」ということになるのだろうが、そんな生易しい映画ではない。映像はロープウェイの保守管理業務をしながらエキストラとして殺され続けるしがない役者宮松の日常を淡々と描きながら、喪失したもう1人の宮松=山本の過去を探るサスペンス・ミステリーのように展開していく。やがて記憶喪失前の同僚と出会い、自身の妹とも再会。実家で過ごすうち野球のマルチプレイヤーであったことなどが明らかになる。宮松の現在がなぜエキストラなのか、なぜあんなに死体役が上手いのか、過去にあった事実と照らし合わせて一見分かりやすく描かれてはいるが、時系列は宮松の複雑な人生や胸中とリンクするようにとても複雑な作りになっている。まるで観ている我々を隙あらば混乱の渦に引き込もうという製作者の意図(悪意ではない)をひしひしと感じる。小説の1ページを捲るごとに現れる小さなどんでん返し。そんな映像トラップの積み重ねが意識を掻き乱していくのだが、同時にこれほどまでに小気味良い感覚を生み出すものだとは思わなかった。自分が観ているこのシーンは果たして現実か否か、どこかで「はい、カット!」の声が聞こえるのではないか。そんなざわつきは突如現れるエンドクレジットまで続いた。宮松はなぜ妹の住む実家に戻らず1人で生活する道を選んだのか。記憶が戻ったからと結論付けるのは簡単だが果たしてそれで万事解決なのか。そもそもこの映画に正解はあるのか。「エキストラが主役」という何とも不思議な自己矛盾を内包する映画なのだから、それこそ自分自身を内包する迷宮の中でいつまでもぐるぐるとさ迷うように、いつまでも映画の中でいたいと感じた。改めてエキストラの重要性、本当はエクストラな存在なのではないかと思わせてくれる、そんな映画だった。
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