yuminagabeato

そばかすのyuminagabeatoのネタバレレビュー・内容・結末

そばかす(2022年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

シネ・リーブル梅田にて鑑賞。予告も見ておらず、どんな映画か、それこそ邦画か洋画かも分からずに観た。随分無茶をしたものだ。だが、えてしてそういう状態で観た映画が当たりだった時の嬉しさは格別だ。一言で言うなら「ジェンダー問題とフェミニズムをテーマにしたアラサー女子のこじらせラブコメ」といったところ。ただ、物語は丁寧に作られていて、主人公のアセクシャルを始め、恋愛、結婚、離婚、出産、家父長制、浮気、うつ、性産業、フェミニズム、ルッキズムなど様々な問題を茶化すことなく真正面から真面目に扱いながら、しかも重くなりすぎないよう、上手くストーリーに落とし込んでいるのが実に良い。昨今はツイフェミと称する一派が自己の気に入らない事柄に対しツイッターで我が物顔に持論を振りかざし、男性を汚物のようにくさす風潮があるが、そのような行き過ぎた主張ではなく、性的マイノリティが感じる生きづらさや、公表することの難しさ、声を上げることの大変さを、きめ細やかな描写で途切れることなく繋いでいく監督の手腕には感心した。主人公は友人の結婚式に招待されスピーチを任されるが人前で話すことは苦手である。チェロを演奏してスピーチに代えるのだが明らかな逃げである。彼女は自分の人生の逃げ道をチェロに頼ろうとしていた。しかし主人公はチェロを弾くことを最後にすると父に約束する。これは逃げ道を断つことの宣言であり、自分と向き合う宣言でもある。そしてその後は、自分を映画に誘ってくれた男性に対し、自分が性的マイノリティであることを宣言して交際できないことを詫びる。彼女はかつて自分に好意を寄せ告白してくれた相手に何も返すことができなかった。だが成長した彼女は自分に恋愛感情がないことを理解し、それを相手に伝えることができるようになった。だからこそラストシーンで走り出した彼女の表情は明るい。宇宙戦争の逃げ出す走りではない。新しい自分に自信を持って走り出した瞬間なのだ。性の多様性、生き方の多様性と声高に叫ばれる現代だからこそ、主人公の発する言葉の一言一言が心に染みる、そんな映画だった。
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