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左様なら今晩はのShingoのレビュー・感想・評価

左様なら今晩は(2022年製作の映画)
2.5
もうちょいコメディよりかと思ったけど、普通に恋愛映画だった。
一応、幽霊という設定ではあるものの、どちらかと言えば宇宙人とか未来人との、別れを予感させる出会いみたいな。
アイドル(方言女子)×聖地巡礼というコンセプトも特に違和感なく落とし込まれていて、尾道に行きたくなった。

いわゆる「怖くない幽霊」というジャンルものは割と好きで、そういう視点からは楽しめる部分も多い。欲を言えば、もう少し怖がらせる演出からの笑いというギャップが欲しかったかも。寝ている時に、なんか身体が重いな~と思ったら愛助が乗っかってるとか。
同ジャンルでは、ブレイク前の高橋一生が主演のドラマ「怪奇大家族」を思い出す。主人公の前に現れた女の幽霊が、口から血をだらーとたらして床に血だまりができると、「ああ~、ごめんなさい」って慌ててティッシュで拭いて掃除するみたいなノリ。
「未練を残した霊を成仏させる」タイプの作品とはまた違ったジャンルだと言える。漫画作品だと「社畜と幽霊」や「怨霊奥様」などがある。

愛助がビールを飲んだりプリンを食べると、味が落ちてまずくなるってくだりは、「社畜と幽霊」でもコンビニおにぎりでやっていた。こちらは食べるのではなく、おにぎりの生気を吸い取るみたいな感じだったが。
とり憑いた相手と一緒なら外に出られる的なところも共通している。
ただ、本作においてはそういう幽霊あるあるネタはあくまで味付け程度で、本筋はやはり恋愛ものであるだろう。

陽平がソファで目を覚ますと愛助がいて、びっくりして怒るというシーンがあるが、愛助が「そんなに悪いことしたかな?うちだって、いたくているわけやないんよ!」と半ば逆ギレして陽介を詰めるのは、同棲カップルあるあるって感じだった。
のどぼとけの感触に「男」を意識してしまうとか、そういうところにリアリティを感じて愛助に感情移入できた人は、二人の別れにも思わず涙してしまうのかも知れない。
しかしながら、いろいろと腑に落ちない点がノイズになって、私は残念ながらそこまで気持ちが入ることはなかった。

まず、愛助がどこの誰でどうして死んだのかは、普通に新聞などで調べたらわかるのではないか。3年前にあのアパートで死んだことはわかっているのだから、殺人や自殺などで事件化していれば記事になっているだろうし、同じアパートの住人や大家に聞いてみてもいいだろう。手がかりが不動産屋だけってことはないはずだ。
不動産屋のおやじが色々とあやしい雰囲気を出すから、てっきりこのおやじが彼女を殺した犯人かと思った。そもそも幽霊を何とかしたいなら、元カノに連絡してお札を譲ってもらえばいいと思う。

結局、なぜ愛助が死んだのか理由は明かされない。そこは問題ではないということかも知れないけど、あえて隠す理由もない気はする。
「左様なら、今晩は」というタイトルは、愛助が最後に「さようなら、また今度」と別れを告げる場面で回収されるが、ここもしっくりこない。それならどこかで「こんばんは」と言って終わるべきじゃないかと。
あえて「左様なら、今晩は」と漢字で表記される意味も気になる。その辺は原作を読んで確認するしかないか…。

もうひとつしっくりこないのは、陽介のキャラクターだ。
映画冒頭、同棲相手の彼女が「そういうところ、ほんと嫌」と言い捨てて出ていくが、そういう陽介のことを3年も見てきたのに、愛助はなぜ彼を好きになったのか。会社の同僚も同じだ。
見てくれはいいけど、付き合ってみると中身はダメってタイプに描かれるのに、なぜモテるのか疑問だ。まあ、そこがわからないからお前はモテないんだと言われたら返す言葉もないが(笑)。

愛助がベランダから外に出る場面で、飛び降りるのが怖いというやりとりがあるが、それ以前に「本当に外に出られるのか?」という疑問は湧かないのだろうか。
デートの最後は明らかに「別れの場面」っぽく演出されているのに、いやプリン買って帰るんかい!しかも玄関から普通に入ってくるんかい!とツッコんでしまった。
ベランダから外に出るのは、もうあの部屋には戻らない(成仏する)って意味だと思ったのだが。だからこそ、映画館が休みで「またにしよう」と言ったり、「プリンを買って帰ろう」という言葉が悲しく聞こえるのではなかったか。

ストーリー上、重要ではないから無視しているというより、そういう疑問すら持たずに脚本を書いているように見えてしまう。
これを重箱の隅をつついていると言うべきか否か。なんかいろいろとモヤってしまった週末の夜であった。

あと、あの服でノーブラと見抜く陽介、すげえな。
「俺でなきゃ見逃しちゃうね」ってか。
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