B5版

ドント・ウォーリー・ダーリンのB5版のネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

アリスとその夫は完璧な夫婦。
オシャレな車、バービー人形が住む様なお家、夢のあるビジネス、バカンスのような日常を気さくなご近所と楽しむ毎日。
夫婦は全てを手に入れていた。
アリスがあの場所に行くまでは。

SFスリラーロマンス映画。
失業やすれ違いから鬱屈を溜め込んだ夫はある日妻を完璧な世界へと誘拐した。
引き換えに与えたのは幸せを詰め込んだ夢の生活。
美しく、型番で生成したようにワンパターンな物質的、精神的な豊かさと幸せが賄われたそこは実は仮想現実であった。
「仮想の何が悪い?」
だって、現実世界は我々にいったい何を約束してくれるというんだ?

昨今の現実は、世界中何処もかしこも手厳しい。
先のない世界の肉体を手放し、せめて精神だけでも救われたいという欲に誘われた気持ちに思い当たる節は無いかと問われると、否。
しかし理想が手に入らないフラストレーションを抱えた時に死の救済に望むのではなく、新たな仮想空間でまやかしの承認欲求の権化となるのは嫌に生々しく、
現代人の強欲さの延長線上にはこういう未来もきっとあると思わせる内容だった。

無辜の人とは呼べないが、確かに夫は妻を愛していた。
死を以て欲望から解放された彼は彼女へ心を託し、そしてアリスはこの完璧に別れを告げに走る。
愛する者は還らないとしても。
愛故に、愛を利用し、愛を踏み躙った末路の夫、そのどれもがエゴだとしても。
時折揺らぎから蘇る悪夢こそが本当の現実なのだと知っても。
病める時も、別つ時も、約束したよね、
だから心配しないでね。

「完璧」の額縁がなくとも生きたいと願った道を辿って走り切るラスト。
爽快感はないが、しかし暗い心地にもなく、不思議な充足感に満ちた、愛と欲望を問答する作品だった。
B5版

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