このレビューはネタバレを含みます
恋人アランを失って以来、過食を繰り返す生活を送っていた主人公チャーリー。
命が危ぶまれる程の肥満、高血圧1人では歩行すらも困難だ。
友人リズの手を借りながら生活を続けていたものの、鬱血性心不全により、自身の命が残り僅かと悟ったチャーリーは、8年前アランと暮らすために元妻の元に置いてきた娘、エリーに会うことを決意する。
チャーリーは自分を癒すように、そして罰するように食べる。彼についた脂肪は行き場のない感情の塊だ。
オペラ座の怪人のように、彼は己の醜さを理解し、恐れている。拒絶、優しさ、生すらも。それでもきっと僅かな救いを求めていて、その救いとなり得るのがエリーなのだろう。
宗教的背景が理解できていた方がアランの置かれた立場に、より感情移入できたかもしれない。彼はゲイで、それ故に家族からはリズ曰く癌のように扱われた。
チャーリーは彼を愛していたのだろうし、救い、守りたかった。でもそれはチャーリーがいれば救われる、そういう類のものではなかったんだね。だからチャーリーを置いて逝ってしまった。
家族を捨てた罪、そこまでしたにも関わらずアランを救えなかった罰、悍ましい身体を抱え、深い傷を脂肪で覆う…。
可哀想だけど、目を背けることしかできない、なんとも行き場のない悲しみ。
過食が解決にならないことは、本人が1番分かっているけれど、この悲しみには終わりなんてないのだ。
この果てない苦しみをとてつもない説得力で描いているのが、本作のとても評価したいところ。
だけど、やはり作品全体としてみると残念な点も多い。
個人的に同監督の『レスラー』でも感じたことだけれど、描写がぼんやりして少々大味だ。主人公の演技やテーマは素晴らしい。でも素晴らしければ素晴らしい程、細部の勿体無さが目立つ。
リズとチャーリーの関係、リズとアランの関係、エリーの性質を説明するために、宣教師を名乗る青年の存在は確かに必要だけど、彼の存在がなくても物語としては問題なかったように思う。思わせぶりに登場するわりに、中途半端なキャラクターに感じた。彼個人がチャーリーと関わろうとする理由もちょっと曖昧だし。
娘のエリー、元妻についても人物像が浅いので、どうにも都合よく登場する感が否めない。
元妻のどこを愛したの?アランのどこに惹かれたの?幼い頃のエリーとの関係性は?
ストーリーを見る限りでは、どうしてエリーがあそこまで歪んでしまったのかも、元妻が今更チャーリーに会ってどのような感情を持ったのかも、アランが生前なにを思っていたのかも、いまいちふわっとしている。(お金の無心をしてみたり、寄り添ってみたり、観ている側には感情の機微が両極端に思えて一貫性がない。)
チャーリーの行き場のない痛みはしっかりと描かれている分、周辺の人物の心理描写がもっと深掘りされていたら、より説得力がある深い話になったのではと思ってしまう。