emi

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。のemiのネタバレレビュー・内容・結末

3.1

このレビューはネタバレを含みます

進路に悩み母親とも上手くいかない女子高校生"百合"は三者面談の夜、些細なことから母親と喧嘩になり家を飛び出してしまう。
雨の中彷徨っていると今は子供達の秘密基地になっている防空壕が目に留まる。雨宿りも兼ねて中に入る百合だが、気づけば寝入ってしまい…目覚めるとそこは見慣れない光景だった。
行く宛もなく衰弱した百合を助けてくれたのは佐久間という軍服を着た男性だった。彼は百合を介抱し、食事を摂らせるため鶴屋食堂に連れていく。そこで百合は自分が戦時中の日本にタイムスリップしてしまったことを知る。


映像化に先駆け、原作小説を読んだ上での感想。

大筋は原作に忠実だが、小説に比べると描写が浅く、細かいエピソードは削られてしまっているため、主人公の百合が妙に順応性が高い人物に映る。
家を飛び出す百合の心の葛藤(父親が人助けをして亡くなったというエピソードの描かれ方が中途半端)や、タイムスリップして心細い中で優しくしてもらい鶴さんを親のように大切に思うようになるエピソードなど、もっと丁寧に描いてほしかった!というのが正直なところ。
全体的に時間経過も描写が大味。なぜあれほどタイムスリップ後の百合が衰弱していたのか、なぜそれ程に彰を好きになったのか、全てが駆け足で見る側も時間経過がわからないので現代に戻ってきた時に「たった半日しか経っていない」という驚きが薄れてしまうのが勿体なかった。(小説ではきちんと流れがわかる)

劇中の百合の言動が18歳より幼く感じるが、主演の福原遥さんの喋り方が元々少しおっとりした印象である(まいんちゃんは好きだし応援してるしそこもいいと思うけれども)ことと、原作の百合は14歳という設定であるためだと思う。

元々百合は気が強く、クラスでも浮いた存在なので、戦争や特攻についての自分の意見を時代背景などお構いなしに主張してしまうキャラクターではあるのだけど…年齢設定を変えたのなら、もう少し百合の人物像も年相応に変えても良かったのではないかと感じた。ちょっとチグハグ。

彰との描写も大筋のエピソードは盛り込まれているものの繊細さを欠いており、助けてくれた彰が再会後いきなり距離を詰めてきたように見えて少々怖い。すごい唐突に「彰と呼んでくれ」と言い始めたようにみえる。

もうこれは私個人のイメージの問題だけど、俳優さんの目が常時キマってる…というのは失礼だと思うのだが、北村一輝さんタイプのお顔立ち、かつ演技がちょっと機械的であまり目が笑っていないので。小説の彰は優しくてもう少し柔和なイメージだった。(ごめん、水上さんのファンの人。)もう少し柔らかい演技であるとか、百合と2人の時間を上手く描いてほしかったな。


一番気になったのは演出面
どうも演劇の舞台を撮影しているような違和感がある。
通常なら背景の人物が思い思いバラバラの動きをしている状態が自然なシーンで、全員が妙にタイミングを合わせた動きをしていたりして。どういう意図でそう撮ったのかは分からないけれど…、人物のフレームアウトのタイミングや、背景に映り込む人々の動き、所々のカメラワークが少し不自然に思えた。


とはいえ劇場は公開から暫く経っているにも関わらず賑わっており、感動して泣いている方も多くいた。
特攻隊員の面々の演技などはとても良かった。原作を知らなくてもストーリーはきちんと追えるし描写されているので楽しめると思う。

ただかなり原作に助けられた映像化であることは否めない。
原作からしてストーリーは正直ベタだ。でもそこが良いし、やっぱりきちんと感動できるのだ。

素材がいいからこそ、個人的にはもっと映画ならではの良さを感じたかった。
限られた尺の中での説得力ある見せ方や、感心するような工夫など、意義を感じられる出来であったなら…。残念だけれど、その期待には応えてもらえなかった。
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