ひこくろ

ハッチング―孵化―のひこくろのレビュー・感想・評価

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
4.4
北欧の雰囲気全開のすごく面白いホラー映画だった。

暗い森、湿った空気感、落ち着いた映像、ほとんど説明をしない物語、そして、金髪の白人美少女。
そこにファンタジックでグロテスクな非日常の要素が入ってくるのは、まさに北欧ホラーの定番という感じ。
しかも、雰囲気だけでグタグタになってしまう作品も多いなか、この映画はその雰囲気に負けないくらいの魅力を放っている。

少女がこっそり育てた卵から化け物鳥が生まれる。
鳥は少女になつき、二人の秘密の生活がはじまるが、化物鳥の凶暴性は隠しようがない。
いつ何時誰を襲うかもわからない。

というのが基本的な恐怖の形なのだが、面白いのは鳥と少女に関係性があるところだ。
鳥は少女の分身であり、彼女の深層心理の具現化でもある。
だから、鳥は少女そっくりに成長していく。
そして、鳥が襲うのもまた少女の願いそのものなのだ。

自己中心的でわがままな母親。
浮気をされても平気を装う父親。
ティンヤを敵視する弟。
体操の大会のライバルである同級生。
母親の浮気相手の男性。
その男性の赤ん坊。

誰が襲われてもおかしくない。
でも、ティンヤ自身、自分の気持ちがわからないでいるから、誰が襲われるのかわからない。
この辺の妙には本当にゾクゾクさせられた。

そしてもうひとつ。
この映画の最大の肝となるのは母親の気持ち悪さだろう。
動画配信者の母親は、配信したいがためだけにティンヤを大会に出そうと必死になる。
何もかもが自己中心的で、浮気をするのも厭わない。
そればかりか、「恋をしてるの」とティンヤに告げて、あろうことか、彼女を浮気相手の家へと連れていく。
あらゆる点で自分本位な母親を、それでもティンヤは心からは憎めない。
それが、鳥が母親に襲いかかっても殺さないってところから見えてくるのもたまらなかった。

グロテスクな描写と、深い心理描写が重なって味を出す。
そして、最後まで観ても心地よくなれない。
北欧ホラー好きにはぜひおススメしたい一本だと思う。
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