いの

はい、泳げませんのいののレビュー・感想・評価

はい、泳げません(2022年製作の映画)
3.8
(的外れなことばかり書いてます)
ほのぼの&お気楽にクスっと笑える映画かと思うてたら違ってました。深い喪失からどう立ち直るのか、というよりもむしろ、深い喪失をそのまま受け入れることができるようになるまでのお話だった(ような気がする)。そのまま受け入れるということは、理屈で考えることでなくて無になることかもしれないし、力を抜くことかもしれないし、息を吐いてみることなのかもしれない。まず、“小鳥遊”という名字と、それをどうして“タカナシ”と読むのかという説明からして良いですよね。「知性とは」の説明にも心が躍りました。原作通りの設定なのかどうかはわからないけど、長谷川博己が哲学専門のセンセイという設定もとても良いと思います。その設定が効いている(哲学監修は國分功一郎だった)。スイミングスクールのおばちゃん4名が、旦那に対する軽い悪口みたいな感じで、“有害な”とまではいかないけれども男性性への苦言を呈する。例えば、男は自分ひとりで勝手に決めて一人で完結して、うまくいかないと酒を飲む、とか。おばちゃんたちのそういった苦言を自分のこととはとらえずスルーできる人には全く響かない映画で(すみませんっ、わたしの思い込みです!)、その苦言にグサっとくる人にとっては心に染みる映画なのかもしれない(でも本当は、響かない人は気づいてないだけで、グサってくる人はホントはグサってくる必要のない人なんじゃないかって気がしてる。グサっとくる人はホントはグサってこなくても大丈夫)。だから男性に向けた映画のようにも思う。女はそんなことわかっちゃってるんだよ。


綾瀬はるかさんは水泳選手体型になっていて流石。わたしがおもしろいと思ったのは、泳ぎ方を教える綾瀬はるかの在り方で、自分の好きなことを教えたい人って、本来こういうもんじゃないのかなって。自分にとって大切なものを、相手にも味わってほしくて、やたらとお節介になるし押しつけがましくなるし口うるさくもなる。でも教えたい人ってそういうもんだと思う。それが教えたい人の本質だろうという気がする。水泳教室事務所と水族館が手を伸ばせば繋がる場面も、終盤の公園の場面もすごく良かった。映画が、リアリティを飛び越える場面に胸が詰まる。


全く穿った見方かもしれないけれど、女性を全然美しく撮っていないように思えたことは不満。麻生久美子は年をとったんだなぁと感じたけれど年をとるのは当たり前だからそのことはおいておくとしても、あの服装もナンだし、シャギー入ってると言うてたけれどもぱっつん前髪も似合ってるとは思えなかった。終盤に至るまでの描き方はひどいもんだった(終盤少し描き方は良くなったけれど)。阿部純子だってもっと可愛らしく撮れたんじゃないかという気がする。ファーストショットの髪型からして(略)。おばちゃん4名はモブに徹する。綾瀬はるかの抱える困り事も(略)。・・・と考えると、これは男性のための映画だって気がしている。女性みんなで長谷川博己のことなんとかしてあげた映画という気もしてきた。小鳥遊センセイはたくさんの女性たちに感謝したらいいんじゃないかしら



〈追記〉2022.06.19
この映画は、生きづらい男性に向けた映画だと思いました。生きづらさの象徴が泳げないということなのかも。
いの

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