たにたに

NOPE/ノープのたにたにのネタバレレビュー・内容・結末

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

【錯乱する情報】2022年125本目

様々な考察勢が沸きに湧き上がるジョーダンピール最新作。ジリジリとした不吉な効果音を巧みに使いながら、人々の噛み砕かれる悲鳴、そして血の雨や物体の巨大化などの大きな見せ場を作り、ところどころに意味深なシーンを堆積していく。その一つ一つのシーンに、これは一体どうゆう意味が含まれているのか、そんなことを考えながら非常にワクワクする作品であった。

チンパンジー、
馬の調教師、
硬貨が刺さって息耐える父親、
映画の起源は黒人の乗馬映像、
元子役のアジアンスター、
人間を食す未確認生物、

それぞれ意味があるのでしょうね。
人種/支配/搾取などのキーワードが当てはまりそうですが、私は単純に世間のメディアに対する見方への警鐘なのではと感じました。

過度なジャーナリズム精神でバイクでやってきた男や、興味本位で身を挺した監督が、あいつに呑み込まれていくシーンなど。メディアというのは人々の興味を買って金にする仕事です。

本作で特に強調される"目"。

目とは、人々の興味の行く先を意識的にも無意識的にも表現する。
そしてその視線を向けたことによって見なければよかったと後悔することもあれば、視線を向けられた対象が痛いと感じることもあります。
つまり、目にはそれだけで感情を訴えかけるだけの力があります。

私たちはもはやスマホ中毒であり、そこに蔓延する情報に振り回されている。それが正しいか正しくないかを置いといて、自分の興味関心に振り回されている。そこには、一般市民もまた過度なジャーナリズム精神を持ってしまっているという原因が考えられそうです。

主人公らも、その物体をカメラに捕らえようとしておりますが、物体には捕食されませんでした。それがなぜか、作品の着地点が自分にはかなりしっくりきました。

終盤、彼らは"見てはいけない"ということに気付いたからです。とてつもなく目立って興味の引く情報に対して、直視するのでなく、一歩引いた立場でいることが大事なのだと思います。陰謀論に惑わされるなと。

OJが馬に跨り、あいつと対峙する場面。妹に対して、OJは人差し指と中指を自分の目に向け、そしてその指を外に向けるサインをした。
よく見とけ、みたいなサインですね。
これを"あえて"2回やったんですよね。
1回で判断するんじゃなくて、一呼吸してもう一回見つめ直せ。という我々へのメッセージなんじゃないかと。

信頼できる情報かどうか、それを見極める力を我々は持つべき。
偏見を取り払って、再度相手を考えてみる。メディアの情報が正しいか、自分でもう一度調べてみる。

疑心暗鬼になるのは良くないですが、
捕食されていないか、また自分自身もSNSなどで捕食する側になっていないか考えるべきでしょう。

あんなにカメラで捕らえるのが難しかったあいつを、妹が汗水垂らしてようやく謎フォトスポットで見事に撮影に成功しました。が、集まったメディアがいとも簡単にカメラで報道してましたね。そしてそれをみてニヤリとする妹。

兄が生きていたことへの安堵か。
事実が公になったことへの安堵か。


今作は様々な違和感や、謎が散りばめられていて、その正解がわからない部分が多い。この理解できない情報が、暗喩を探る我々の好奇心を駆立てており、ジョーダンピールの作品自身が情報の際限のなさ、誤読の可能性をメタ的に表現しているように思います。
たにたに

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